――バチッ!
――ザザザーッ……、プチンッ!
――チャラララッラッラ、チャラララ〜♪


『ヘイ、みんな〜。準備は良いか〜。まずは身体を慣らすためのエクササイズだ。音楽に合わせてスクワット〜。ハイ、ワン、ツー……。』


アイオリア様が踏み付けたのは、テレビのリモコンだった。
リモコンの上部、電源のボタンを踏んでしまったらしく、パチリとテレビ画面が点灯した。
ザザーッと画面が波打った後、突然に始まったのはエクササイズのプログラム。
あらゆる電波が遮断されている聖域では、一般的なテレビ番組は見られないが、任務のための資料映像や、娯楽のための映画などを見るために、テレビを設置している宮も少なくない。
そして今、軽快な音楽と共に流れ出したのは、シュラ様が鍛錬のために見ているエクササイズDVDだった。


「……アンヌ。何だい、アレは?」
「雨の日や、ちょっと時間の空いている時に、これを見ながら鍛錬しているんです、シュラ様が。」
「あのシュラが? 一人で黙々と腹筋でもしてそうな、あの男が? こんなものを見ながら鍛錬?」
「たまには気分を変えないと気が滅入るそうで……。」


部屋の中に響き続ける軽快な音楽。
リモコンを踏んでしまった猫ちゃんは、その場でピタリと動きを止めて、テレビ画面に釘付けになっている。
更には、私の腕の中にいたシュラ様までがピョーンと飛び降りて、アイオリア様の横に並んで画面を食い入るように見始めたではないか。


――チャラララッラッラ、チャラララ〜♪


『ハイ、ワン、ツー。じゃあ次のエクササイズにいくぞ〜。左手は背中の上に、そのまま片手一本で腕立て伏せだ〜。ハイ、ワン、ツー。』
「ミイッ。」
「ミャッ。」


微動だにせず、画面に見入る猫ちゃん二匹。
ただ耳だけが音楽に合わせてピクピクと動いている。
何ですか、あの可愛い生き物は?


「エクササイズ中のマッチョを食い入るように眺める猫って……。」
「可愛いですね。まぁ、不思議な光景ではありますけど。」
「何処も可愛いくはないと思うけど。ま、取り敢えず、これを見ている間は大人しくしていてくれそうだし、アイオロスは……。」


気配の感じられなくなった人の姿を探して振り返る。
と、そこには、いつの間にかソファーにドッカリと座り込み、猫ちゃん達と同じくエクササイズ映像を凝視するアイオロス様の姿があった。
何でしょうね、この人達。
自分の筋肉を鍛えるための情報を、少しも逃すまいと全神経を傾けて見ていますが。
筋トレに掛ける、この集中力は一体……。


「しっかし、マッチョが音楽に合わせて、ひたすら筋肉を鍛えるだけの映像なんて、何が楽しいんだか。」
「さぁ、私にはさっぱり分かりません。アフロディーテ様の方がお分かりになるのでは?」
「私だって分からないさ、こんなの。薔薇栽培のプロによる園芸番組でも見ていた方が、よっぽど有意義だよ。」


画面の中のエクササイズは、次第に激しさを増していく。
加熱する運動に合わせるように前のめりになっていく猫ちゃん。
そして、大型犬のようなソファーの上のアイオロス様。


『はい、ワン、ツー。ワン、ツー。』
「ミャッ。」
「ミミッ。」
「う〜ん、これはなかなか良い動きだなぁ……。」


何はともあれ、アイオロス様の危険なお仕置きが忘れ去られたようで良かった。
これだけ大人しくテレビに齧り付いていてくれるなら、多少は放っておいても大丈夫そうですね





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