「ほうら、シュラ。回る、回る。」
「ミミャー!」
「ほうら、シュラ。早い、早い。」
「ミギャー!」


シュラ様の首根っこを掴んだままの右手を、まるで大車輪の如くグルングルンと回すアフロディーテ様。
遠心力で振り回され、高い悲鳴を上げるシュラ様。


いやいや、えっ?
何をしているんですか、アフロディーテ様?
聖闘士の力とスピードでそのような事をしたら、小さな猫ちゃんの身体になったシュラ様の内臓が、とんでもなく大変な事に……。


「いや、ほら。あまりにシュラが悪餓鬼だから、ちょっと懲らしめておこうかと思って。ん? 悪餓鬼じゃなくて悪猫かな。」
「そこはどうでも良いですが……。」


兎も角、あまり激しい懲らしめは危険です。
それは見る人が見れば動物虐待とも受け取られかねないのですから。
全く……、女神様も真っ青の極上の笑顔で、何てエグい事をするのだろうか、この人は。
グルグル回されたシュラ様は、デロンと伸びた真っ黒な毛皮のマフラーみたいになっちゃいましたよ。


「今日は色々と災難続きですね。まぁ、自業自得と言えばそうなのですが。」
「ミミャア……。」
「反省しないシュラ様が悪いのですよ。」
「ミミャア……。」


すっかりグデングデンに伸びてしまったシュラ様を、自分の腕の中に引き取る。
目の中が漫画のように渦巻きグルグルになってしまっている黒猫ちゃんは、身体に力を入れる事も困難になっている様子でグッタリと私に身体を預けて抱っこをされた。


「……あ〜も〜、煩いなぁ。何を大騒ぎしているんだい、さっきから。」
「あ、アイオロス。」
「ミッ? ミミイッ!」


いけない、忘れていたわ。
アイオロス様が磨羯宮で眠っていた事をスッカリ忘れていました。
唐突に声が聞こえてきた方へと振り返ると、小脇にシュラ様ソックリの黒猫ちゃんを抱え、寝癖でボサボサの髪を掻き毟りながら大欠伸を漏らしているアイオロス様がいた。


え〜と……。
半裸なのは、突っ込んだ方が良いのでしょうか、見て見ぬ振りをした方が良いのでしょうか。
そもそも、いつの間に法衣を脱いだのでしょう。
いえ、それよりも何よりも。
いつの間に、リビングから姿を消したのでしょう、アイオロス様は。
何処で寝ていたのでしょうか、彼は。


「いやぁ、途中でトイレに行きたくなって起きたんだけどね。どうせなら寝心地の良いところで寝たいなぁと思って、客用の寝室を勝手に借りたんだ。あ、法衣なら、その部屋の椅子に引っ掛けてあるよ。」
「はぁ、そうですか……。」
「良い睡眠だった。これで寝不足も解消、元気いっぱい、体力満タン。」
「いっそ、ずっとゲッソリしていてくれれば良かったのに……。」


ボソリと呟いたアフロディーテ様の言葉が、猫ちゃんを含めたその場の全員の総意だった。
この人が元気だと、それだけで厄介事が増えるのだ。
アイオリア様に至っては、私の足首の陰に隠れて、プルプルと小刻みに震えている。


「凄いよね、カプリコは。アレに懐くとか不思議でならないよ。何で平気なのかな? どう思う、アンヌ?」
「本物の猫ちゃんだからでしょうか? 小宇宙的なものを感じないからとか?」
「ミミッ。」
「いやいや、本物の動物には野生の感があるんだから、馬鹿に出来ないよ。普通は怯むだろう、あのビリビリくる威圧感には。」


アイオロス様の小脇に抱えられたまま、その剥き出しの脇腹に頬をスリスリと擦り付けて御満悦顔のカプリコちゃん。
これはやはり本気でアイオロス様に惚れてしまっているのではないでしょうか。
何せ、アイオリア様に惚れ込んで、獅子宮に住み着いてしまった雌猫ちゃんですから。





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