むっしゃむっしゃ。
もっしゃもっしゃ。


皆様のランチに合わせて、シュラ様とアイオリア様には鶏のササミを。
モシャモシャと夢中になって食べる姿は、本当に可愛らしい。
ついつい食事の手を止めて、その愛らしい姿に見入ってしまう。


「アンヌ。自分の食事が疎かになっているよ。」
「はっ?! す、すみません。つい……。」
「まぁ、アンヌの気持ちは大いに分かる。こんなに愛らしいのだからな。」
「中身、シュラとアイオリアだけどね。そこに目を瞑ればね。」


いや、でも、シュラ様とアイオリア様だからこそ、余計に可愛く思えるのではないでしょうか。
普通の猫ちゃんも、それなりに可愛いですけど、やはり、こう手が掛かるというか、心配で目が離せなくなるというか、そういう面倒も全て込みで愛情が深くなるのではないかと。


「そういうものなのでしょうかね。」
「そういうものなのだろうな。」
「ミャッ。」
「キミが肯定するものでもないだろ、シュラ。」


ムウ様が少し呆れた顔で、そして、アルデバラン様が納得したといった顔で、食事中の二匹の猫ちゃんを見遣ると、口をモゴモゴさせたままシュラ様が右手を挙げた。
そんなシュラ様に突っ込みを入れるのが役目といわんばかりに、アフロディーテ様が身を乗り出して、狭く小さな額にデコピンを食らわす。
ミギャミギャと抗議の声を上げるシュラ様。
その横で知らん振りを決め込むアイオリア様は、モシャモシャとマイペースにササミを食べ続けている。


「猫は良い。癒される。」
「では、猫を飼ってみてはどうですか、サガ。」
「飼う? 私がか、ムウ?」
「そうです。貴方は執務、執務、また執務で、生活が殺伐とし過ぎです。猫がいれば、多少のリラックスにもなるでしょう。」
「しかし、私は自分の宮に殆ど帰る事がないから、世話も何も出来ないのだが。そもそも触れ合う時間もない。」


確かに、そうですよね。
サガ様が双児宮に戻る事は滅多になく、教皇宮の住人かとさえ錯覚してしまう程だし。
双児宮の方は、時折、海界から聖域へと戻ってくるカノン様の仮住まいのようになっていますし。
ムウ様の提案は内容的には良いものとはいえ、現実的には無理なお話だ。


「ココで飼えば良いじゃないですか。双児宮ではなくて。」
「ココ? 教皇宮で飼うというのか?」
「えぇ、この黄金聖闘士の執務室で飼えば良いのです。サガは一日中ココに居るようなものですし、貴方がいなくとも、誰かしら詰めているでしょう。夜勤警護も交代でありますから。皆で面倒を見れば良いのですよ。」
「なるほど……。」


シュラ様やアイオリア様と違って、本物の猫ちゃんは眠っている時間が多いですからね。
一日いっぱい暴れ回っているお二人とは異なり、それほど手も掛からないと思う。
執務室で事務仕事をしている黄金聖闘士が交代でお世話するなら、それほどの負担にはならないのではないだろうか。
と言っても、お世話の殆どをサガ様がするのでしょうけれど。
そして、猫可愛がりしてメロメロになっているところまで容易に想像出来ます。


「ならば、良い猫を探してくるか。成猫で大人しい子が良いだろうな。」
「心当たりがあるのかい、アルデバラン?」
「一般人の居住区に、修復師を引退した男がいてな。彼が猫好きで何匹も飼っているんだ。」


そういえば以前、猫好きのお爺さんがいるって話を聞いた事があったけれど、その人の事だろうか。
猫を抱っこしたお爺さんの姿を思い浮かべた、その時。
皆の話を聞いているのか、いないのか、ササミを食べ終わったシュラ様が、満足そうにゲフッと大きなゲップを吐いた。





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