深く濃い闇を形作っていた空が、薄っすらと白み始めた頃。
私の意識は夢と現実の狭間で、ふわりふわりと漂っていた。
起きているのか、眠っているのか、自分でも分からない。
ただ目の前に広がる乱れたシーツの波が、私の頬の下で擦れる感触に、うっとりとした心地良さを感じているだけ。


その時、スッと身体を微かな痺れが走った。
シュラ様が、その長い指先で、私の身体の線をなぞるように辿ったたからだった。
だが、起き上がるどころか、ハッキリと目を覚ます気力もなくて、私は視線だけをホンのちょっと動かす。
ぼやけた視界の中、柔らかな波を打つシーツの先に、シュラ様の逞しい胸板だけが映った。


「……から言ったろ? お前は魅力的だと。」


そっと囁かれたシュラ様の声が、寝落ちてしまいそうな意識の奥で優しく響く。
頷くだけでも良い、何かを返したかったのに、今はもう、指先一つも自分の意志では動かせない。
それ程に、私はクタクタに疲れ果て、意識を飛ばす寸前だった。


「こんなにも抑制が効かなくなるくらい、俺を駆り立てるのだからな。グッタリと動けなくなってもまだ、アンヌを手離せないのは、お前の存在自体が俺を煽り、挑発し、突き動かすからだ。分かったろ? 俺の中の欲望を、こうまで刺激するアンヌ。お前は罪な程、魅力的だ。」


声になるか、ならないか。
閨の空気を僅かに揺らす囁き声が、耳の奥に流れ込み、そこから伝って私の脳内を満たしていく。
その抑揚が、吐息のように掠れる様が、隠し切れない熱っぽさが。
脳を支配した彼の声の全てが、意識も遠く身動きも出来ない筈の私の身体に、じんわりと甘い疼きをもたらした。


「……感じているのか?」


多分、身体が勝手に震えたのだ。
散々、繰り返された愛の行為の後でも、まだ満たされ切っていない部分があるのかもしれない。
いや、満たされても直ぐに、この身体も心も渇きを訴えるのだろう。
だからこそ、声も出せない、このような状態でも、彼の声に、仕草に、身体が勝手に反応を示してしまうのだわ。


自制を知らないシュラ様の指先が、うつ伏せて横たわる私の髪に触れた。
そして、その指は、髪から伝って、うなじ、首筋と、触れるか触れないか程度の感触で滑り落ちていく。
その優しく焦らすような触れ方が、返って私の身体の疼きを深くした。
半分以上、意識は眠っているのに、奥深い場所からジワリと熱い雫が溢れてくる感覚が身体を捉える。


首筋から背中、背骨を辿って、その先の柔らかな二つの丘の谷間へと潜り込んでいく、その指先。
微かな触れ方で撫で擦り、指の動きは徐々に深まっていく。
シュラ様が私の背中にキスを降らせ始めた頃には、長く存在感のある指が、身体の奥深くに入り込み、一番心地良い場所を刺激していた。


「あ、あぁ……。」


無意識に零れる、切なくも甘い声。
その声を聞いたシュラ様が、私の耳元に満足さを含んだ吐息を零す。


「シュラ、様……。も、無理、です……。」
「悪いのは、お前だ、アンヌ。お前がこんなにも俺の心を揺さ振るから……。」


後の言葉は高まり切った情欲に掠れて、消えてしまった。
明け方の空の下、閨の奥に響く睦言は、当分、止みそうにない。





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