くわっ、ふわわわわ……。


大きな口を開けて豪快な欠伸を漏らす黒猫のシュラ様。
その横で、後ろ足を使って器用に顎の下を掻くカプリコちゃん。
どちらが本物の猫ちゃんだか分からない程にソックリです。
すると、私の横で大人しく座っていたアイオリア様が「ミー。」と鳴いた。
どうやら同じ事を考えていたようだ。


「早く元の姿に戻りたいですよね。」
「ミー。」
「シュラ様を見ていると、戻りたいと思っているように思えませんけどね。」
「ミイィ。」


あ、アイオリア様、頭のてっぺんに寝癖を発見。
では、ブラッシングしましょう。
そこに座っていてくれると助かります。


「ミミッ!」
「嫌ですか? でも、そのままにしておくのは格好悪いですよ?」
「何だい? アイオリアはブラッシングが嫌いなのかい?」
「ミー!」


ブラシが怖いのだろうか?
痛くされるとでも思っているのかしら?
折角のふわふわクリクリの金茶毛を、寝癖のまま放っておくのは如何なものかと思うけれど。


「猫と言えど身だしなみを整えるのは大事だよ。人の姿の時ならば、いくら野暮臭いアイオリアでも、寝癖くらいは直していたじゃないか。」
「ミ、ミイ……。」
「はいはい、大丈夫ですよ。痛くないですよ。」


シュルシュル、シュッシュ……。


流石は猫ちゃんの毛、細くてふわっふわですね。
ブラッシングをされているアイオリア様も気持ち良さそうに目を細めてウトウトし始めているが、ブラッシングをしている私も心地良い手触りにホワホワしてくる。


「ポワンとしている場合ではないぞ、アンヌ。」
「は、はい。分かっています……。」
「ミャッ!」
「わ、吃驚した! どうしたんですか、シュラ様? 何かありました?」
「ミミャッ。ミャミャッ。」


どうやら自分にもブラッシングしろと言っているようだ。
アイオリア様の気持ち良さそうな顔を見て羨ましくなったのだろう。
でも、艶々な短毛のシュラ様には、ブラッシングは必要なさそうですけど……。


「ミギャッ! ミギャー!」
「煩い猫だな、怒りっぽいし。短気で気難しくて自己中な猫だ。多少の気難しさと、多大な自己中さは元々あったけど、短気ではなかった筈だよ、人の時のシュラは。」
「猫の姿だと、自分の思うようにならないので、イライラするのではないでしょうか。」
「ミギャー!」


呆れた顔をしたアフロディーテ様が、シュラ様の首根っこを文字通り摘み上げた。
ブラーンと浮かんだ身体をジタバタさせて暴れるシュラ様だが、当然、アフロディーテ様が手を離す筈がない。
怒り狂ったところでどうにも出来ないシュラ様の姿を見て、クスクスと笑っている。
うん、まさにコレですよね。
アフロディーテ様に良いようにされても、マトモな抵抗も出来ないのですから、余計に苛々してしまう。


「よし、シュラ。私が直々にブラッシングをしてやろう。」
「ミギャッ?!」
「そんなに恐れる事はない。私は乱暴な事はしないよ。そんな風には見えないだろう?」
「ミギャギャ!」


何故でしょう。
一見、優しそうなアフロディーテ様と、一見、乱暴そうなデスマスク様。
でも、ブラッシングしてもらうならデスマスク様の方が良いと思えるのは。
実際、デスマスク様は器用ですし、猫ちゃんの扱いも上手い。
暴れるシュラ様でも、易々と宥める技術がある。
多分、シュラ様も分かっているのだろう。
だから、暴れてでも抵抗するのだ。





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