「ミミャー、ミャー。」


それまで猫じゃらしに夢中だったシュラ様が、突然、アフロディーテ様に向かってジャンプを始めた。
アフロディーテ様というより、彼に首根っこを捕まれてブラーンとぶら下がっている猫のアイオリア様に向かってだろうか。
ピョンピョンピョンピョンと、ジャンプしては華麗に着地し、またジャンプを繰り返している。


「何だい、シュラ? 私に喧嘩でも売る気かい?」
「違うと思います。多分ですけど、アイオリア様を下ろして欲しいという事ではないかと。」
「アイオリア?」


言われてアフロディーテ様は、猫ちゃんの首を掴んでいた手をパッと開いた。
わわっ、落ちる!
と思った瞬間、アイオリア様はクルリと空中で身体を一回転させて、しなやかに床へと着地した。
流石は猫ちゃん、身のこなしが軽い軽い。


「ミミャミャ。」
「ミー。」
「ミャッ。」
「ミミーッ。」


着地と同時にアイオリア様へとじゃれ付くシュラ様。
う〜ん、結局、何がしたかったのでしょうか、この黒猫ちゃんは。
そのまま取っ組み合って、ゴロゴロと床を転がる二匹を見下ろし、私は首を傾げた。


「猫の考える事なんて分からないさ。さぁ、朝御飯にしよう。流石に空腹で辛くなってきた。」
「あ、はい。そうですね、朝食でした。ほら、シュラ様もアイオリア様もカプリコちゃんも、御飯の時間ですよ。」


猫ちゃん達を追い立ててダイニングへと移動する。
部屋の隅に餌箱を三つ並べて置くと、ワラワラと集まり頭を突っ込む猫ちゃん三匹。
モッシャモッシャモッシャモッシャ。
一心不乱に餌を食む姿も、猫ちゃんだと可愛らしいもの。
ついついジーッと眺めてしまう。


「……アンヌ。」
「はっ?! す、すみません! 直ぐに用意します!」


慌ててダイニングテーブルにモーニングプレートを運び、温めたスープをカップに注ぐ。
朝食を食べ始めると、特に会話もなく、静かに食事が進んだ。
それだけ、私達はお腹が空いていたのだ。


「そういえば……。」
「ん?」
「昨夜、夢を見ました。アフロディーテ様も猫ちゃんの姿になっていました。とっても高貴で綺麗な猫ちゃんでしたよ。」
「そう言われても嬉しくないんだけどね……。」


アフロディーテ様だけでなく、デスマスク様も、ミロ様やカミュ様も猫ちゃんの姿になった昨夜の夢を思い出す。
どの猫ちゃんも皆、愛らしくて可愛らしかった。
黒猫のシュラ様がエッチな猫ちゃんである事には変わりなかったけれど。


「止めてくれ、アンヌ。縁起でもない……。」
「どうしてです? 可愛い猫ちゃんばかりでしたよ。デスマスク様は毛無しの猫ちゃんでしたけれど。」
「可愛いとか、どうでも良いさ。考えてもみなよ。黄金聖闘士が皆、猫に変わってしまったら、この聖域はどうなると思う? とんでもない惨事だよ。」


確かに皆が皆、猫ちゃんになってしまったら、聖域は機能を失い、大混乱に陥るのは間違いない。
それでも、夢の中では全員という訳ではなかったし……。


「アイオロス様がいませんでしたから、大丈夫かと思います。」
「アイオロス?」
「はい。猫ちゃん達の中に、アイオロス様の姿はありませんでした。なので、彼が一人残っていれば大丈夫なのではないかと。」
「アイオロスねぇ……。大丈夫のような、逆に全く大丈夫でないような……。」


眉を顰め、眉間を指先で押さえるアフロディーテ様。
昨日のアイオロス様の姿、あの捻くれた態度を思い出すと、正直、信用し切れないのも当然なのだろうと、私も思った。





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