――ドゲシッ!


「い、痛いです……。何なのですか、一体……?」
「シャー!」


猫ちゃん達を侍らせて、まったりうっとりとしていた隙を狙われ、背後から強烈な蹴りを食らった私。
とはいえ、当たりの強さから判断して、人からの攻撃ではないだろうと思いつつ振り向くと、奇妙な姿をした猫ちゃんが一匹。
皺の寄った皮膚に、体毛がないザラッとした印象の猫ちゃん。
この猫は、確かスフィンクスという品種の猫ちゃんだったかしら。
とすると……。


「デスマスク様、ですか?」
「シャッ!」
「どうして蹴ったりするんですか? 暴力反対です。」
「シャー、シャー! シャー!」


言いたい事は良く分かる。
「平和ボケしやがって、のほほんとしてンじゃねぇぞ!」って、仰っているのでしょう。
えぇ、分かっています。
良〜く分かっていますよ。


「ちょっとくらい良いじゃありませんか。どうせ夢の中なのですから。こうして可愛い猫ちゃん姿の皆様と戯れたって、罰は当たらないでしょう。」
「シャッ! シャーッ!」
「シャーシャーと煩い猫ちゃんですね。ちょっと静かにしていてください。」


無駄に歯を剥き出しにして喚くデスマスク様を黙らせるために、頬下の皮膚をムンズと引っ掴む。
肉の少ない部分の皮は伸び易いのか。
シュラ様の頬下もビロンと良く伸びたけれど、デスマスク様は、それ以上だわ。
伸びる、伸びる、良〜く伸びる。


「ギギギ……。」
「猫になっても目付きの悪さは変わらないんですね、デスマスク様は。」
「グギギ……。」


目付きが悪いのはソイツも同じだ、とでも言いたいのか。
私の膝の上にいるシュラ様を前足で小突くが、気にも留めない黒猫ちゃんは、胸の谷間に顔を潜り込ませて御満悦だ。
ゆ、夢の中でもムッツリスケベなんですね、シュラ様は。


ふと気が付くと、私の周囲には猫ちゃん達が集結していた。
膝の上のシュラ様、私に頬下の皮を伸ばされているデスマスク様。
右横にはカミュ様とアイオリア様。
そして、左横にはミロ様と、喧嘩を終えたサガ様とカノン様。
そこに、もう一匹。
顎を誇らしげに高く上げ、優雅にゆっくりと近付いてくる猫ちゃんがいた。
ふわっふわの毛を優雅に揺らして歩く様は、この中でもとびきりの美人猫で、降り注ぐ太陽の光を浴びて、一際キラキラと輝いている。


「アフロディーテ様は、猫ちゃんになっても断トツに美しいんですね。触れるのも畏れ多いくらいです。」
「ミャーン。」


そんな事はない、遠慮せずに撫でてくれ。
そんな心の声が聞こえてきた気がして、私の真正面に落ち着いた猫ちゃんのフワフワな頭に手を伸ばす。
上品で、気品があって、大人しくて、同じ猫ちゃんでも、喧嘩腰で乱暴なデスマスク様とは大違いですね。


「キシャー!」
「すみません。つい声に出てしまいました。」
「シャー!」
「そう言えば、アイオロス様は居ないのですね。あの方が猫ちゃんになっていたら、どんな風になっていたのかしら?」


猫ちゃんよりも、ワンちゃんっぽい。
やんちゃで甘えたがりのイメージが強いアイオロス様は、ゴールデンレトリバーとか、人懐っこいワンちゃんに似ていて、猫ちゃんになった時のイメージが湧かない。
だからこそ、猫ちゃん姿のアイオロス様を拝めなかったのは残念に思う。


「さ、もう少しだけノンビリしましょうか。」
「ミャーン。」


猫ちゃん達の頭を順番に撫でると、彼らは弾かれたように、また草原を駆け回り始める。
じゃれ合い、転げ合い、はしゃぐ黄金の聖闘士猫ちゃん達を眺めながら、私は笑みが止まらなかった。





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