「……ん、んんっ。」


夢の途中で目が覚めた。
可愛い猫ちゃん達に囲まれ、のんびりほわほわと幸せな夢だった。
ぼんやりと夢の余韻に浸りながら、ゆっくりと身を起こす。
横からはシュラ様の心地良さげな寝息が聞こえていた。


「……フガフガ。」
「まだ猫ちゃんのままなんですね。」


暗闇の中、目を凝らしてシュラ様の姿を探す。
お気に入りの枕に身を沈めたシュラ様は、闇に溶け込む黒猫の姿。
金色に輝く瞳が瞼に覆われてしまうと、居場所を掴むのが難しい。
闇に目が慣れるまでは。


「……フガフガ、フガッ。」
「猫の姿でも何の不自由もなさそうですよね、シュラ様は。」


猫としての生活を満喫しており、十分に幸せそうだ。
しかも、吃驚するくらいに危機感がない。
人の姿に戻れなかったら、それでも別に構わないとでも思っているのかしら。


闇とシュラ様の身体の境目が分からないまま、そろそろと手を伸ばす。
指先に触れた艶やかな毛並み。
そのままワシャワシャと背中を撫で回し、そこから小さな頭へと手を滑らせた。
これだけ好きに触られても、全く起きる気配がないシュラ様。
人のままだろうが、猫になろうが、睡眠が深いのは変わらないんですね。


その時、カサリと小さな音が響いた。
顔を上げると、闇の中に薄ぼんやりと猫ちゃんの姿が浮かび上がっているのが見えた。
足音を忍ばせて、私達の方へ近付いてきていたのだ。


「……アイオリア様?」
「ミッ。」
「どうしました? 寂しくなっちゃいましたか?」
「ミー。」


シュラ様が寝ている枕の下に、クルリと丸まって落ち着くアイオリア様。
そして、スリスリと私の手の甲に顔を擦り付けてきた。
そのまま顎の下を撫で、小さな頭を撫で、耳をチョイチョイと摘む。
アイオリア様はシュラ様のように、耳を弄っても嫌がらないから嬉しい。
ついつい余計に触ってしまう。


「ミー。」
「す、すみません。耳の触り心地が良くて、ついつい止められなくなってしまいました。」
「……フガッ。」


シュラ様……、寝言ですか。
急に声を上げるから、アイオリア様も吃驚して首を上げて見てますよ。
何の夢を見ているのか、細くて長い尻尾が、ゆらりゆらりゆっくりと揺れている。
暢気ですね、この人は……。


「えいっ。」


ゆらゆら揺れる尻尾を、ワシッと鷲掴みしてやった。
が、それでも目覚めないのがシュラ様だ。
フガフガと寝言なのか何なのか分からない声を上げて爆睡を続けている。


「ミイッ。」
「アイオリア様も思います? 暢気なヤツだなぁって。」
「ミミッ。」


アイオリア様は長くしなやかな前足を伸ばし、寝そべるシュラ様の胴体を突っ付いた。
チョイチョイ、グラグラ。
明らかに左右に身体が揺れているが、それでも起きないシュラ様。
幾ら何でも眠りが深過ぎじゃありませんか。
呆れるくらいにグースカ寝ている。
グースカ、その言葉がピッタリだわ、まさに。


「ミ、ミー。」
「無駄です、アイオリア様。その人(その猫か)、起きる気が全くないみたいですから。」
「ミー。」


ベシベシ、ベチベチ。
ワサッ。


あまりの反応の無さに痺れを切らしたのか、グイッと身を乗り出して、シュラ様の身体に猫平手を繰り出すアイオリア様。
それでも、起きる気配を見せないシュラ様に対し、アイオリア様はシュラ様の眠る枕の上によじ上り、半ば強引に隙間に入り込んでしまった。
しかも、シュラ様の身体を枕にして、とても満足そうに息を吐く。


「ふふ、良い枕を見つけましたね、アイオリア様。では、おやすみなさい。」
「ミイッ。」


時計を見ると、午前三時を少し過ぎた頃だった。
起床は六時。
後三時間、ゆっくり眠れれば良いけれど。
そう思いながら、私は瞼を落とした。



→第10話へ続く


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