バタンと閉まるドアの音。
後に残されたアフロディーテ様と私と猫ちゃん達。
デスマスク様は宣言通り、本当に巨蟹宮へと帰ってしまった……。


「ミ、ミイイ……。」
「どうしました、アイオリア様?」


小さく小刻みに震える声で微かな鳴き声を上げたアイオリア様。
腕の中から見上げてくる緑色の瞳が、不安げに潤んでいるように見える。


「ミミャッ。」
「シュラ様?」
「ミミャミミャ。」


私の隣、ソファーの空いた箇所に飛び乗ったかと思うと、小さな頭を無理矢理に脇腹へと擦り付けてくるシュラ様。
どうやら、背中と背もたれの間に潜り込みたいらしい。
少しだけ身体を前にズラして座り直すと、スッポリと背後にハマり込んでしまった。


「……隠れて何をする気だい?」
「え……?」
「シュラの事さ。キミの後ろから、私の様子を窺っているよ、アンヌ。」


私からは見えないので分からないが、背後に入り込んだシュラ様が、頭を半分だけ出して、アフロディーテ様の事を窺い見ているらしい。
という事は、私を壁の代わりに使っているんですね、悪い猫ちゃんですこと。


「シュラもアイオリアも、そんなに私の事を警戒する必要はないのに。」
「そうは言っても、警戒はしたくなるんじゃないですか?」
「どうしてだい?」


どうしてもこうしても、アフロディーテ様が全ての元凶ですもの。
当然、警戒もするでしょう。
遠巻きに様子も窺うでしょう。
何しろ今は全く力を持たない小さな猫ちゃんの姿になっていますし、その状態で一晩を一緒に過ごさなきゃならないのですから……。


「取って食ったりはしないさ。見れば分かるだろう。こんなに猫を可愛がっているんだから。」
「いや、でも、カプリコちゃんですから、それ……。」


腕に抱いたリアルな猫・カプリコちゃんに、スリスリと頬擦りしてから、こちらを見遣るアフロディーテ様。
しかも、見事なドヤ顔で。
だが、そもそもがイケメン大好きな猫ちゃんを相手に、それは全く意味のないパフォーマンスだと思いますけれど。


「失敬な。私は植物だけでなく、動物にも優しいのだよ。」
「…………。」
「何か言ったらどうだい?」
「それは、あの……。」
「ミギャ、ミギャギャ。」
「文句があるなら、アンヌの背後から出てきて言うんだね。黄金聖闘士のクセに弱腰な。」
「ギギャッ!」


カプリコちゃんを床に下ろしたアフロディーテ様は、目にも止まらぬ速さで私の横へと近付き、背中の後ろに隠れていたシュラ様を引き摺り出してしまった。
流石は黄金聖闘士様、何という速さでしょうか。


「ミギャー!」
「煩いな。大人しく私に抱っこされるんだ。」
「ミギャッ!」
「ついでにアイオリアも、こっちへ来い。」
「ミミッ?!」


アフロディーテ様の腕の中で暴れるシュラ様。
そして、私の腕の中で怯えながら、イヤイヤと首を振るアイオリア様。
シュラ様は既に捕まっているから仕方ないとして、アイオリア様をアフロディーテ様に渡してしまうのは、余りに忍びない。
ここはシュラ様にグッと耐えて頑張ってもらうしかない。


「アンヌに見捨てられたぞ、シュラ。これは、もう私に可愛がられるしか道はないな。」
「ミギギャー!」
「ほうら、ほら。」
「ギギャ、ギャギャ!」


暴れるシュラ様を抱いたままソファーに腰を落とし、真っ黒な頭やら背中やらをワシャワシャに撫で始めるアフロディーテ様。
身を捩り、手足をバタつかせて抵抗する猫ちゃんの姿を眺め、私は「頑張ってください。」と、心の中で応援するしかなかった。





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