「……痛っ!」
「ミギャッ!」


突然、上がったアフロディーテ様の悲鳴。
そして、それと同時に、それまでシュラ様の頭をグリグリと撫でていた手を、彼は慌てて引ていた。


「なしたぁ?」
「噛まれた。」
「ええっ? シュラ様が噛んだのですか? 何て事を……。」


腕の中に抱っこしたままの猫ちゃんを見遣ると、噛んだシュラ様は、フフンと勝ち誇った顔をしている。
余程、嫌だったのですね、アフロディーテ様に撫でられるのが。


「凶暴な猫だな。本っ当に可愛げがない。同じ憎たらしい猫でも、まだアイオリアの方が愛嬌がある。」
「そりゃ仕方ねぇだろ。中身シュラだし。」
「ミギャッ!」
「煩ぇよ、オマエはコッチ来い。」
「ギギャギャッ!」


デスマスク様が半ば強引にシュラ様を引っ張り上げ、私の腕の中から自分の腕の中へと移動させた。
当然、暴れるシュラ様。
しかし、そこは扱いに慣れているデスマスク様だ。
喉の下を撫でたり、背中を擦ったりして、上手い具合に宥めていく。


「慣れたものだな、デスマスク。キミは聖闘士よりもペットの躾をする何かになった方が似合ってるんじゃないのか?」
「アホか。コックになれとか、ペットのトレーナーになれとか、ンなモンにゃなンねぇよ。ほれ、オマエはコイツな。」
「……む?」


デスマスク様が傍に居たカプリコちゃんの首根っこを摘み上げ、アフロディーテ様の膝の上に乗せた。
シュラ様のように怒ったりしないカプリコちゃんは、「ミャオン。」と小さく一声鳴いて、アフロディーテ様のお腹に頭を擦り付け始める。
その人懐っこさと愛らしい仕草に、猫ちゃんに対しては頑なだった彼も、流石に心が動いたようだった。


「見た目はシュラとソックリなのに、この子は随分と愛嬌があるな。」
「普段は淡々・飄々としているんですけどねぇ。カプリコちゃんは兎に角、イケメン好きなので。」
「イケメン?」
「アイオリア様の宮に住み着いちゃったのも、それが理由ですよ。」
「成る程。」


そう呟きながら、アフロディーテ様がカプリコちゃんを胸の前に抱き上げる。
スリスリと首筋付近に顔を擦り付けられ、彼も満更でもなさそうな様子だ。
本物の可愛い猫ちゃんの威力は凄まじいですね。
まるで興味のなかったアフロディーテ様まで、今や虜にしてしまいそうな勢いですもの。


「お、そうだ。イイ事、思い付いたわ。」


良い事?
デスマスク様がそういう事を言う時は、大抵が悪い事なのですが。
いえ、言っている本人的には良い事なのかもしれないですけれど……。


「アフロディーテ。オマエ、今日はココ泊まれ。」
「……は?」
「ホントは俺が泊まる予定だったンだわ。コイツ等、アンヌ一人に任せておくには、色々と厄介だしな。だが、そうすると俺の宮で飼ってる猫共を放置せにゃならんしで困ってたンだよ。オマエがココに泊まってくれりゃ、俺は帰れるし、上手い具合に収まって丁度イイ。」


冷ややかな視線が降り注がれるが、そんなものは全く気にしないデスマスク様。
それどころか、良い考えだと、大層、御機嫌な様子。
でも、そんなに巨蟹宮の猫ちゃんが心配なら、その子達もココに連れて来てしまえば問題ないのでは?


「二匹も居ンだぞ? 連れて来たら、五匹もの猫に占拠されちまうじゃねぇか。つか、その二匹だけでも核爆弾クラスの扱い難さなのによ。」
「ミギャッ!」
「ミミィッ!」


確かに、カプリコちゃんは手が掛からないとしても、シュラ様とアイオリア様の面倒を見るのは、本当に大変です。
五匹……、う〜ん。
シュラ様とアイオリア様が仲良くしていてくだされば、何とかなると思うのですが。


「無理、無理。ぜってー無理。つー訳で、ヨロシク頼むわ。」
「何故、私が……。」
「元はオマエが蒔いた種だろが。しっかり責任取れよ。」


やや膨れ面のアフロディーテ様を余所に、デスマスク様は気楽な様子でニヤリと笑った。





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