ぺちぺちぺち……。


デスマスク様が黒猫シュラ様のお尻、というか、お尻から後ろ足にかけての張りのある腿の筋肉を、ペチペチと軽く叩く音が響いている。
何故、そこを叩いているのか理由は分からない。
叩き心地が良いからなのか、ただ叩きたいだけなのか。
シュラ様の方は、叩かれようが何をされようが、全く気にせずにグースカ眠り続けているけれど。


「オイ、コラ。猫になったからって、いつまでも脳天気に寝てンなよ。」


――ベチンッ!


シュラ様のお尻に、強烈な張り手が一閃。
それに驚いて跳ね起きるシュラ様。
文字通り、小さな猫ちゃんの身体が跳ね上がり、細い目を見開いて全身を強張らせている。
警戒してキョロキョロしている様が面白くて可愛いです、シュラ様。


「ミギャッ! ミギャギャ!」
「あー、うっせー。爆睡してたテメーが悪ぃンだろが。」
「ミミャッ! ミギャミギャギャ!」


デスマスク様の姿を発見し、果敢にも飛び掛かっていくシュラ様。
しかし、あっさりとキャッチされてしまい、宙ブラリン状態になった黒猫ちゃんは、せめてもとばかりに手足をバタつかせて暴れている。
しきりにギャーギャー喚いていますけど、何を言っているのでしょうか?


「そうだなぁ。『何をする、蟹め。人の尻を叩くとは何事だ。しかも、寝ている間とはいえ、勝手に人の部屋に入り込みやがって、許さん。』とでも言ってンだろ、コイツの事だから。」
「見事な通訳ですね、デスマスク様。シュラ様なら、本当にそう言いそうです。」
「言いそうってか、言ってンだろ、コレ。」
「ミギャー!」


――ブンブンブン!


怒りの沸点が頂点に達したのか、デスマスク様に摘み上げられたままバタバタ振り回されているシュラ様の手足に、光り輝く小宇宙が宿った。
素人の私が見ても明らかに分かる。
両手・両足と鋭利な刃物を四本も振り回し、暴れる黒猫ちゃん。
デスマスク様は、シュラ様を摘んだ腕を目一杯に伸ばし、自分と猫ちゃんの間に距離を作る。


「ヤメロ、危ねぇっての!」
「ミギャー!」
「シュラ様、落ち着いてください!」


あんなに危ないものを振り回されていては、抱きかかえて宥める事すら出来ないわ。
こうなったら仕方ない、奥の手を使う以外には。
もう一匹の力を借りるしかないわね。
私は未だ眠り続けている金茶の猫ちゃんを、両手でグラグラと揺さ振った。


「アイオリア様、アイオリア様! 起きてください、アイオリア様!」
「ミ……、ミィ……。」
「寝起きのところを申し訳ありませんが、助けていただきたいのです。シュラ様が暴れて手を着けられなくなってしまいまして……。」
「ミミッ?」


デスマスク様に首根っこを摘まれたまま聖剣を振り回すシュラ様の方を、指で示す。
一目で何事か悟ったアイオリア様は、一目散に二人(一人と一匹)に向かって駆け出した。
そのままの勢いで、ヒョーイとシュラ様の背中に飛び付いたと思った、その瞬間。


――バリバリバリッ!


「ミミー!」
「ミギャッ?!」


見事な電流攻撃炸裂。
アイオリア様が飛び掛かった刹那にデスマスク様が手を離していた事もあって、床にボトリと落下するシュラ様の身体。
えぇと……、大丈夫でしょうか?
生きていますか、シュラ様?


「ミ……、ミャア……。」
「瀕死だな、こりゃ。」
「わっ!? 大丈夫ですか?!」
「おっと、手ぇ触れンなよ、アンヌ。まだバリバリに帯電してやがるからな。」


まさか、こうまで威力があるとは……。
やはり猫ちゃんといっても黄金聖闘士、その力は恐るべし。
手も触れられずにアワアワしている私の横で、誇らしげに胸を反らしたアイオリア様が、「ミイッ!」と高い鳴き声を上げたのだった。





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