「ミミーーッ！」


聞こえてきたのは、勝ち誇った猫ちゃんの鳴き声。
薄目に見上げる先には、胸を反らしてモフッと座る、金茶色の猫ちゃんの姿。
ふわっふわの尻尾がパシパシと揺れ、ドッシリとした身体付きは威風堂々。
うん、あれは間違いない。


「アイオリア様……、ですか？」
「ミイイッ！」
「まさか、脱走してきたのですか？」
「ミミッ！」
「それで獅子宮からココまでダッシュしてきたと？」


シュラ様に比べれば千倍は大人しいアイオリア様が脱走だなんて。
ま、まさかミロ様に何かされたとか？
いや、あのミロ様がそのような事は間違ってもしないだろう、デスマスク様じゃあるまいし。
カミュ様だって一緒に居たのだから。


「ミー！」
「随分と勝ち誇った様子でいらっしゃいますけど、脱走は決して良い事ではありませんよ、アイオリア様。」
「そうだぞ、アイオリア。理由も言わずに逃げ出すのは卑怯者のする事なのだ。」
「わっ？！　び、びびび、吃驚した！　カミュ様、いつの間に？！」
「アイオリアを追って来たのだ。」


本当に、何が、どうなって、いつの間に、カミュ様が私の隣に現れたの？
まるで分からずに驚いている私など眼中になく、カミュ様は鋭い視線で、階段上のアイオリア様を見上げている。
しかし、視線はアイオリア様から逸らさずに、手だけが私の腕の中のシュラ様の小さな頭を撫で撫でしているのだから呆れるしかない。


「ミミャ！」
「アイオリアはシュラよりも大人しいと思っていたのだが、実はシュラの方が大人しかったのだな。」


いやいや、シュラ様の方が、余程やんちゃですよ？
暴れるし、自分勝手だし、言う事を聞かないし。
その点、アイオリア様は聞き分けの良い可愛い猫ちゃんだと思いますが。


「ミギャッ！」
「そんな事はない、と言っているが？」
「そんな事はあります。はい、カミュ様。シュラ様を少しだけ預かっていてください。」
「さ、シュラ。こちらへ来るのだ。」
「ミギャギャッ！」


嫌だと言って首を振るシュラ様をカミュ様の腕の中に押し込め、階段を駆け上がった。
背後から抗議の鳴き声が上がっているが、気にしてはいられない。
きっとカミュ様が必要以上にギュッと抱っこしているのだろう、それに対する抗議に違いない。
だが、今はアイオリア様の保護が先だ。


「アイオリア様、駄目じゃないですか、脱走だなんて。」
「ミミッ。」
「途中で猫浚いにでも遭ってしまったらどうする気だったんですか？」
「ミ……。」
「一緒に帰りますよ。さぁ、こちらへ。」
「ミー……。」


アイオリア様から少しだけ距離を置き、下から見上げながら手を広げて待ち構える。
すると、渋々ながらも、ゆっくりと階段を下り、私の腕の中へヒョイッと飛び込んできた。
ふわり、もこもこの毛並みが肩と首筋に触れ、擽ったくて、心地良い。


「……私が説得しても、全く応じなかったクセに。」
「ミミャッ。」
「確かに、追い駆けられると逃げるのが生き物の本能だが、危ないと注意しているのに無視するのは良くないのだ。」
「ミャミミ。」
「そうか、ムッツリなのだな、アイオリアは。だから、私の説得には応じず、アンヌの言う事だけを聞いたのだ。まぁ、男に抱き上げられるより、女の腕に抱かれている方が、気分が良いに決まっているが……。」


何やらミャンミャン鳴いているシュラ様と会話が成立しているみたいに見えますけれど、カミュ様、猫語を理解しているのですか？
アイオリア様を抱っこして彼等の元へと下りていくと、コチラを振り向いたシュラ様がギュッと眉間を寄せて顰め面をしたように見えた。


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