「あの、サガ様……。そろそろ戻らないと、デスマスク様のとっても短い堪忍袋の緒が切れてしまうのではないでしょうか……。」
「む、そうだったな。」


ニコニコ笑顔から、途端に、こんなに悲しい事はないとでも言いたげな切ない表情に変わるサガ様。
わ、分かり易過ぎます、サガ様。
そのような態度で、下の者達をシッカリと仕切れるのですか、大丈夫ですか?
ちょっと、いや、かなり心配になってきました。
この聖域の行く末が……。


「あの、すみません。どなたでも構わないので、サガ様を教皇宮まで送り届けてくださらないでしょうか。」
「サガ様を? どうして、アンヌさん?」
「すっかりシーちゃんの魅力に取り付かれてしまって、執務に戻ろうとしないのです。これ以上、長引いては、デスマスク様が激怒しかねませんので……。」


ならば協力しましょう。
黒猫シュラ様と私を取り囲む女官さんの内、お二人の方が、サガ様の送り役(という名の監視)に手を挙げてくれた。
ココから教皇宮まで引き返さなければならないのは大変だ。
だけど、サガ様のお傍にピッタリと付いていられる権利を得られるのなら、そんな事は気にもならない些事だろう。
教皇宮まで戻る道すがら、今よりも更にお近付きになれるのならば。


「では、よろしくお願いします。」
「はいはい、任せてください。さ、サガ様。教皇宮に戻りましょう。」
「ううっ……、シーちゃん……。私は、もっとシーちゃんと遊びたいのだ……。」


後ろ髪をこれでもかと引かれ捲りながら、何度も何度も後ろを振り返りつつ十二宮の階段を上っていくサガ様。
心なしか、その広いお背中が小さく見える。
気のせい?
いや、気のせいじゃない、あれは確実に小さく丸くなっている。
そんなサガ様と女官さんの姿を眺めつつ、私は大きく息を吐いた。
それに呼応してか、腕の中のシュラ様が、ピョコっと顔を上げる。


「さて、シーちゃん。宮の中に戻りましょうか。」
「ミギャッ!」
「我が儘は駄目ですよ。」
「ミギャギャ!」


嫌だと言って、その小さな頭を左右にブンブンと振るシーちゃん、もといシュラ様。
確かに、私と二人きりで室内に籠もっていても楽しい事は何もない。
だからといって、自分勝手で他人の言う事を全く聞かない猫シュラ様を、外に野放しになんて出来ない、絶対に。
シュラ様が暴れ出して、私の腕から逃れる前に、早く宮の中へと戻らなければ。


――イソイソ、ワタワタ……。


「ミギャー!」
「あぁん、もう! 少し大人しくしてください!」
「ミギギャ!」
「そうだわ、部屋に戻ってオヤツにしましょう! 美味しい猫ちゃん用のササミがありますよ。デスマスク様が持ってきてくれ――。」


――バビュンッ!


「ミャッ!?」
「な、何ですか……、今の?」


アレコレと言い合いをしていた私とシュラ様の目の前を、一瞬で通り過ぎていった、『何』か。
通り過ぎた刹那、ゴオッと吹き抜けた強い風と共に、視界にはキラッと光の残像が残る。
本当に、な、何だったのでしょうか、今のは……。


その『何か』が通り過ぎていった先は十二宮の階段。
あと一歩で磨羯宮の中に入るという位置から見上げた階段は、午後の日差しに照らされて酷く眩しくて。
私(と腕の中のシュラ様)は、目を細めて、宝瓶宮の方向を見上げたのだった。





- 4/9 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -