再びシュラ様と猫じゃらしで遊ぶ事、数分。
それまで、まったりミルクティーを啜りながらクッキーに齧り付いていたサガ様が、ホーッと大きな息を吐いた。
自然、猫じゃらしを振る手も止まり、視線がそちらへと向いてしまう。
勿論、シュラ様も同じく。


「どうかされましたか、サガ様?」
「ミミャッ。」
「いや、アンヌ。ちょっとな……。」


私とシュラ様はソファーから離れ、リビングの真ん中、カーペットの上で戯れていたのだが、何やら憂い顔のサガ様が気になって、再び、ソファーへと舞い戻る。
ヒョイと胸の前に抱っこしたシュラ様は、その場の空気を読む事もせず、首筋にスリスリと顔を擦り付けてくる自分勝手具合。
艶々な黒毛が擦れて、く、首が擽ったいのですけれど……。


「うん。やはり良いものだな、と……。」
「はい?」
「ミャッ?」


サガ様は、じゃれ付くシュラ様の無邪気な姿を見てか、一人勝手にウンウンと頷き出した。
一体、何の事でしょうか?
猫ちゃんが可愛いという事でしょうか?
それなら確かに私も頷くところですが。


「こういう……、そうだな。アットホームな雰囲気というか……。気が利いて優しい女官と、愛らしいペットが帰りを待っていてくれる自宮。まさに私の理想だ。」
「はぁ……。」


理想も何も、サガ様なら余裕で実現出来るのでは?
サガ様のお世話をしたいという女官なら数多だろう。
教皇宮で採用を募れば、数え切れない手が挙がるに決まっている。
我も我もと挙がる手は、将来的に女官から恋人の座を得ようと意気込む女性達ばかりだろうから。


見た目の格好良さとは裏腹に、執務や任務、聖闘士としての活動以外には、まるで何も出来ないサガ様。
アイオロス様とは、また違った意味での生活力の無さを誇る人。
つまり、女性の心を大いに擽る人物、本人に自覚は全く無くとも。
そんなサガ様の世話を焼きたいとの思いは、教皇宮で、その駄目生活っぷりを目の当たりにしている女官達なら、誰しもが抱く願いの筈だ。


「ペットだって、気に入った子を飼えば良いのですから、何ら難しい事はないかと……。」
「いや、それがあるのだ、アンヌ。乗り越えられない高い難関が。」
「ミャッ?」


私の腕の中から自分の腕の中へと、シュラ様を引き取ると、サガ様は満足そうに小さな顔に頬を擦り付けた。
刹那、嫌そうに身体を捩るシュラ様。
だが、頭から背中へとゆっくり撫でられて、直ぐにゴロゴロと心地良さげな鳴き声を上げる。
その後は、目の前をユラユラと揺れるサガ様の髪の毛が気になるのか、抱っこされたままの状態で前足を伸ばし、髪の毛にヒョイヒョイとじゃれ付いて遊んでいる。


「難関ですか?」
「そうだ。まず私は自宮に帰れる事が少ないので、ペットの世話が出来ぬ。餌もやれぬとなれば、ペットが餓死してしまう。」
「それは……、女官さんが居ればクリア出来るのでは?」
「以前、一度だけ宮付きの女官を雇った事があるが、余りに私が帰宮しないために、怒って辞めてしまった。」


女官さんにしてみれば、少しでもサガ様と親密になれるチャンス、ましてや一つ屋根の下にいて、何も起きない方がおかしいとさえ思って意気込んでいただろうに。
当のサガ様が全く帰って来ないとなれば、寧ろ教皇宮に勤めていた方がチャンスは大きい。
しかも、宮付き女官と言えば聞こえは良いが、ぶっちゃけ使い勝手の良い『家政婦』であり『雑用係』なのである、嫌気が差すのも当然かも。
サガ様は聖闘士としては完璧に近い人なのに、一人の男性としては完全なる駄目男だったのだ。
早く本人が、その自覚を持てば良いのだけれど……。
サガ様に抱っこされた小さな猫シュラ様の頭を撫でながら、私の唇から漏れるのは溜息ばかりだった。





- 6/7 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -