「で、結局のところ、サガ様はシュラ様の状況確認にいらしゃったという事で宜しいのでしょうか?」
「まぁ、そうなる……。」


語尾が濁るというか、煮えきらない返答。
これはアレですね、確実に。
様子確認という名目で、シュラ様と戯れに来られたんですね。
溜まったストレス発散のための、癒しを求めて……。


「ミャ、ミャーン。」
「これか? これで遊んで欲しいのか、シュラ?」


部屋の中へと入ってきたサガ様は、床に置いたままになっていた猫じゃらしを拾い上げ、それをシュラ様の顔前でパタパタと振り始めた。
当然、それに飛び付き、追い駆け、じゃれるシュラ様。
その姿を見て、パアアと顔を綻ばせるサガ様と様子と言ったら、もう。
こんな顔、執務中には絶対に見られない、超レアな表情です。


「……余程、癒しに飢えていたんですね、サガ様。」
「っ?! そ、そのような事はない。私はシュラが猫の姿になっても元気で過ごしている姿を見て、ホッと安堵しただけであってだな……。」
「良いのです、サガ様。アイオロス様の事もありますし、ストレスも溜まってますでしょう。今は存分にシュラ様と戯れて、しっかり癒されていってください。」
「そ、そうか? ならば……。」


あ、認めた。
認めましたね、サガ様。
認めたら気が楽になったのか、全力でシュラ様と遊び始めるサガ様。
まるで免罪符を得たとばかりの気兼ねなさ。
何というか……、楽しそうでホッとしました。


「私、お茶淹れてきます。」
「アンヌ、そのような気を遣わなくても……。」
「いえいえ。折角ですから、ゆっくり一服していってください。」


私はサガ様の相手を猫のシュラ様に任せ、キッチンへとお茶の用意に。
随分と疲れが溜まっているようなので、糖分摂取にと、こっくり甘めのミルクティーを。
蜂蜜とクリームを入れて、横にはクッキーを三枚添える。
スライスアーモンドを乗せたクッキーは栄養補給にも丁度良い。


「お待たせしました。お茶ですよ。」
「あぁ。すまないな、アンヌ。」


ソファーの前のテーブルにカップを置き、シュラ様をサガ様から引き離すために、後ろから抱き上げた。
「ミギャッ!」と抵抗する声が漏れたものの、抱っこしたまま腰を下ろすと、もがいていたシュラ様も大人しくなる。
そのままスリスリとデコルテに顔を擦り寄せるシュラ様。
ううん、擽ったいです。


「良い香りだ、紅茶かな。美味しそうだ。」
「……って、サガ様?!」
「ミギャッ?!」


紅茶の匂いに誘われて、フワリと法衣を翻し、私の隣に腰を下ろしたサガ様だったのだが……。
え、えっと、サガ様。
あの、距離が……、距離が近過ぎるのですが、ワザとですか?
それとも気が付いていないのですか?


「む? シュラよ、どうした? 何を騒いでいる?」
「それは、あの……、サガ様が近過ぎるからです。」
「近い? 何に?」


やっぱり気が付いていなかった!
この方、天然です、天然!
だから、女官の多くが、うっかりすっかりサガ様の魅力に落ちちゃうんですね、分かります。


私はピッタリと寄り添うように横に座るサガ様から、気が付かれないようにジワジワとお尻の位置を動かして距離を取る。
その間、少しずつ広がるサガ様と私の間の隙間に入り込んだシュラ様は、歯を剥き出しにして、闘志を丸出しに威嚇を続けていた。


「ミギャッ! キシャー!」
「何を怒っているのか分からないのだが……。何か悪い事でもしたか?」
「シュラ様、もう大丈夫です。もう良いですから。」
「ミギャギャ!」
「??」


自覚ない天然さんのお相手をするのは大変なのですね、身に沁みました。
さっぱり理解が出来ずに頭の上に疑問符を浮かべるサガ様を傍目に、私は溜息を吐きつつ、もう一度、シュラ様を膝の上に抱っこした。





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