「……む?」
「どうかしましたか、サガ様?」


すっかり目を細めてお昼寝モードに入ったシュラ様の小さな頭を撫でる手をピタリと止めて、サガ様は眉間に深い皺を寄せた。
普段、教皇宮での執務中に良く見掛ける難しい表情。
それから、長い溜息。


「早く戻って来いと、デスマスクからだ。」
「デスマスク様?」


そうか、小宇宙での会話をしていたのだわ。
シュラ様は小宇宙での会話中も、余り表情を変えないから、今まで気にした事などなかったけれど、こうも顔にハッキリ出されてしまうと、何か重大な事でも起きたのかと、コチラもドキドキしてしまう。


「もうそんなに時間が経っていたのだな。」
「でも、まだ十五分程度では?」
「まだ十五分ではなく、もう十五分だ。十五分もあれば重要書類の一枚は処理出来る。私にとっては大きな時間だ。」


忙しいサガ様にしてみれば十五分程度であろうと、無駄に過ごせない大事な時間なのだ。
分刻みで働き、自宮に戻る時間も惜しみ、睡眠時間を削ってまでも、その身を粉にして執務をこなしているのだから。


「しかし、私はまだシュラと遊び足りぬ。もっともっと戯れていたいのだ。」
「ミャッ?」
「あの、サガ様……。」


余程、ココの居心地が良かったのだろうか。
それとも、本気でシュラ様と離れ難くなっているのか。
サガ様がグッと握り拳を作ってまで力説するものだから、膝の上でウトウトしていたシュラ様まで目を覚ます始末。
まぁ、あれだけ仕事・仕事・仕事に仕事で生きているサガ様だけに、癒しに飢えているのは大いに分かりますけれども……。


「ミミャミャ。」
「そうかそうか。シュラも私から離れ難いのか。」
「とてもそうは言っているように見えませんけれど……。」
「む、何か言ったか、アンヌ?」
「いえいえ。それよりもサガ様。そのように癒しが不足しているのであれば、いっそ教皇宮で猫ちゃんを飼ってしまえば良いのではないでしょうか。」


トイレの場所さえシッカリと躾をしてしまえば、猫ちゃんはワンちゃん程には手が掛からない。
好き勝手に動き回って気儘に過ごし、寝て、起きて、遊んで、また寝て。
自由奔放、ノンビリまったりだ。
可愛がってあげれば甘えてくる事も多くなるし。
執務室の中に、猫ちゃんの可愛らしい姿が見えるだけでも、サガ様にとっては癒しになるのではないかと思う。


「なる程、そうか……。」
「ミミャッ?!」


納得したように大きく数度頷き、それからスクッとソファーから立ち上がったサガ様は、何故か小脇にシュラ様を抱えていた。
そのままドアの方へと歩いていく姿を見て、私も慌てて後を追う。


「さ、サガ様?! 何をされるおつもりですか?!」
「ミミャー! ミギャー!」
「何とは? 猫を飼えば良いと言ったのはアンヌではないか?」
「『猫を』とは言いましたが、『シュラ様を』とは言っていません!」
「キシャー!」


ギャーギャー喚きながら暴れるシュラ様の抵抗を物ともせず、平然と落ち着いた表情で振り返るサガ様。
いやいやいや。
この場面で、教皇補佐の威厳と落ち着きっぷりを見せ付けられても困るのですけれど。


「サガ様のお気に入りの猫ちゃんを選んで飼えば良いのです。シュラ様では意味がありません。大体、シュラ様は明日には元の姿に戻るのですから。猫ちゃんの姿でいるのは今日だけです。」
「ミギャー!」
「……そうだったな。」


酷く残念そうに大きく眉を下げた後、サガ様はこの世の終わりかと思える程に長く深い溜息を吐いた。
そのままゆっくりとしゃがみ込み、シュラ様を床に放す。
そんなにガッカリしなくても良いのに……。


「ミミャミャッ!」
「はいはい、シュラ様。こっちですよ。」


ダダダと勢い良く駆けて来たシュラ様を腕に抱き留める。
その様子を見ていたサガ様は、ガックリと肩を落として、また溜息を吐いた。
どうしてそんなにシュラ様が良いのかしら。
理解に苦しむ私だった。



→第7話へ続く


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