パタパタパタ……。
「流石に他に誰も居ないと寂しいですねぇ。」
「ミャミャ。」
パタパタパタ……。
「人の姿のシュラ様となら二人きりでも寂しくないのに、一人と一匹だと、どうして寂しく感じるのでしょうねぇ。」
「ミャッ。」
シュラ様と二人きり(一人と一匹)になった部屋の中。
取り敢えず、今日の家事だけは済ませておこうと、お掃除とお洗濯、そして、ランチを食べ、今はまったりとした午後の時間を過ごしている。
お昼御飯として少量の猫の餌をカリカリと食べるシュラ様の可愛い姿には、多少、ほっこりとしたものの。
しかし、それから後は、何もする事がなく途方に暮れる私。
だからといって、猫化したシュラ様を放置して買物に出掛けてしまう訳にはいかないし。
そうかといって、シュラ様を連れて買物に出る訳にはいかないし。
小さな猫の姿とはいえ、何を仕出かすか分からないシュラ様だもの。
これがアイオリア様だったら、連れて歩くのも大丈夫だと思えるのだけど……。
「ミミャッ。」
「はいはい、シュラ様。こっちですよ〜。」
仕方ないので、こうしてシュラ様に猫じゃらしをけしかけて遊んでいる。
こんな事くらいしか、時間を潰せるものがないのだ。
右へ左へ、パタパタと揺らす猫じゃらしを追い駆けて、前足でワシワシとじゃれ付くシュラ様の超絶可愛らしい姿には、勿論、癒されはしているのですけれども。
「ミャッ?!」
「どうかしました、シュラ様?」
「ミミャー!」
ダダダダダッ!
突然、猫じゃらしから顔を上げ、狭い眉間をギューッと寄せたシュラ様。
何でしょう、この難しい表情は?
そう思っている間に、シュラ様は小さな身を翻して、部屋の入口のドアへと全力疾走、猪突猛進、一気に駆け寄って行った。
「ミャー!」
ガリガリガリッ!
「わ、シュラ様、駄目ですよ。ドアの木材がボロボロになっちゃいます。」
「ミミャー! シャー!」
ガリガリガリッ!
注意しても止まらない。
元より鋭い目を釣り上がらせて、ガリガリとドアを引っ掻く姿を見ていると、ただの気紛れではなさそうな気がしてくる。
もしや、ドアの向こうに誰か居るのでは?
いや、もしかしての、もしかして、危険な敵が迫りつつあるとか?
それはいけない、それは困る!
シュラ様がこんな姿では戦力になるどころか、瞬殺されてしまうだろうし、望みも何も有りはしないのだ。
多少、聖剣は使えるとしても、猫カリバー程度。
カボチャを斬るのが精一杯ですもの……。
ギギギーッ……。
ゆっくりとドアが開く。
この緩慢さは、敵ではない。
だったら、幽霊、亡霊?
かつてシュラ様に斬られて死んだ、成仏の出来ていない怨霊?
巨蟹宮じゃあるまいし、怨霊が出るなんて止めて、止めて!
「……驚かせてすまぬ、アンヌ。」
「ミミャ、ミャー!」
「あ、サガ様……。」
開いたドアの向こうに現れたのは、申し訳なさそうな顔をして立つサガ様だった。
白い法衣の膝辺りが、埃で軽く汚れている。
もしかして、ドアの隙間から中を覗いていたとか?
それで、気配にシュラ様が気付いて、ドアをガリガリ引っ掻いたとか?
「少しだけ中の様子を窺おうと思ったら、猫のシュラが余りに可愛らしく、思わず見入ってしまった。」
「あぁ、それで……。」
「シュラとはいえ、猫に不審者扱いされてしまうとは……。私とした事が、恥ずかしいな。」
頬を赤く染め、ふわふわ広がる髪を掻き毟る姿は、いつもの威厳あるサガ様の姿と違っていて、何だか少しだけ可愛らしく見えた。
思わずフフフと笑ってしまった私に、シュラ様も膝元で「ミャーン。」と一鳴き、同意の声を上げたのだった。
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