「やっと起きましたね、お寝坊の猫ちゃん。」
「ミャッ?!」


挙動不審にキョロキョロしていたシュラ様の前に屈み、その狭い額にピンと一発、デコピンを食らわす。
ビクビクとしていたところにデコピンをされて驚いたのか、ピョンと飛び上がった真っ黒な身体を、タイミングを合わせて掴み、私の腕の中へとシッカリと抱き止めた。


「ミミャ、ミャー!」
「はいはい、大人しくしてください、シュラ様。」
「ミャー!」
「ホント、我が儘だなぁ、シュラは。」
「ミギャッ! ミギャー!」


私の腕の中で身動きの取れないシュラ様に、ググッと顔を近付けたミロ様が、もう一発とばかりに、シュラ様の額にデコピンをした。
これは、私のとは比べものにならないくらい鋭く早くて……、凄く痛そうです。
シュラ様の上げる抗議の声も、より高く大きいですもの。


「これぐらいで怒るなよ。黄金聖闘士だろー。」
「ミギャッ!」
「ミロは乱暴なのだ。そうだろう、シュラ?」


なでなでなでなで。
カミュ様が小さな頭を撫で始めると、途端に大人しくなるシュラ様。
ピンと尖った黒い耳がピョコピョコ動いていて、後ろから見ていると非常に可愛い。
可愛過ぎて、耳に齧り付きたくなる。


「カミュ様は撫で方もお上手ですね。」
「何事にも愛情が籠もっているから上手くなるのだ。」
「気持ち悪い事を言うなよ。ソイツ、ただの猫じゃなくてシュラだぞ。愛情なんて籠められないって。」
「そういう区別をするから駄目なのだ。何者にも平等に愛情を注がねば。なあ、アンヌ。」


素晴らしいです、カミュ様。
聖闘士の鑑ですね。
だけど、ミロ様はそうは思っていないようで、「偽善者だ!」とかブツブツと零している。


「何か言いたい事があるのか、ミロ?」
「だって、カミュの弟子に対する愛情は、他とは比べものにならないじゃないか。平等だなんて、どの口が言える?」
「ミミャ、ミャー!」
「ミ、ミー!」
「ほら、猫共もそうだって言ってるし。」


キャットタワーから下りて、こちらへと近付いてきた本物の黒猫カプリコちゃんを抱き上げて、涼しい顔をしているカミュ様。
だが、ミロ様の言葉は右から左のようで、まるで何処吹く風だ。


「ミロはアイオリアを連れて、獅子宮に行くのだな。なら、私も共に行こう。」
「へ、何で?」
「お前一人では心許ない。アイオリアの他に、もう一匹、この猫が居るのだからな。」
「カミュ様も一緒に居てくださるなら安心です。ね、アイオリア様?」
「ミイィッ。」


アイオリア様を腕に抱いたミロ様と、カプリコちゃんを抱いたカミュ様の動きから、そろそろ退出する気なのだと察して、私は腕の中のシュラ様をアイオリア様に近付けた。
今回は二人バラバラに過ごすのですよと、教えて上げるつもりだったのだが。
相変わらずのシュラ様が、その長い前足をシュッと伸ばして、アイオリア様の顔面にビシリと肉球を押し当てた。
あああ、もう!
何て事をするのですか!


「ミミッ! ミーッ!」
「ミミャッ! ミギャ!」


バシバシバシバシ!
ビシビシビシビシ!


そして、またもや始まる猫パンチの応報による猫競り合い。
目にも止まらぬ速さで繰り出される猫パンチは、多分、私が食らったら吹っ飛ばされるくらいの威力はあるのだろう。
それを互いに避けながら繰り出す二匹は、可愛らしい見た目と違って、何と恐ろしい生き物なのだろうか。


「コラコラ、止め止め。ちょっと油断すると、直ぐに小競り合い始めるんだから、困った奴等だなぁ。」
「シュラは兎も角、アイオリアはもっと良い子だと思っていた。まさか、このような無駄なところで短気を発動するとは。」
「ミ、ミイィ……。」


カミュ様の言葉にシュンとなってしまったアイオリア様が、また何とも可愛くて。
私は、アイオリア様、シュラ様の順に、頭を優しく撫でて上げる。
それから、少しだけ元気になったアイオリア様と、カミュ様の大胸筋に擦り寄るカプリコちゃんに、名残惜しくはあれど別れを告げて、彼等が出てくのを見送ったのだった。





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