「ミイイィッ!」
「ミギャー!」


これは猫ちゃんの虐待?
いやいや、ただ頬摺りしているだけだ。
左右の腕に抱っこした猫ちゃんを相手に、交互にスリスリしているだけ。
なのに、この悲鳴紛いの鳴き声は酷い、酷過ぎる……。


「あ、あああ、あの、アイオロス様っ! 猫ちゃん達は私が預かりますから、さぁっ!」
「え〜? 何でだ、アンヌ? アイオリアもシュラも、こんなに楽しそうなのに。」


何処がですか?
何処が、どう、楽しそうなのですか?
アイオロス様のフィルターを透過すると、彼等の様子が、そういう風に見えるんですか?


「物凄く嫌われているようにしか見えないのに、何故、それに気付かないんだい、あの男は?」
「気ぃ付いてただろ、さっきまでは。」
「だが、また勘違いが復活したと。脳内お花畑で良いよな、ロスにぃは。ま、そんなポジティブ脳でもない限り、聖域の英雄なんて呼ばれて持ち上げられる事に耐えられないんだろうけど。」


感心している場合じゃないです、ミロ様。
兎に角、猫ちゃん達を助け出さなければ。


「そのままでは、話を進められないでしょうから。アフロディーテ様もいらっしゃった事ですし、さ、猫ちゃん達をコチラへ。」
「……アフロディーテ、来てたのか。」
「私が来た事にも気付いていなかったのか。やはり、あの状態の内に、サクッと殺ってしまえば良かった。」


アフロディーテ様の物騒な呟きは、彼の耳には届いていないようで。
暴れる猫ちゃん達を渋々、コチラへと差し出すアイオロス様。
受け取ると同時に、シューッと一気に鎮火する猫ちゃん達の怒りと嫌悪が、傍目に見ても分かる。
なのに、これに全く気が付かないなんて、アイオロス様って脳天気なの?
それとも天然?
それとも超鈍感?


「鈍感なオマエには言われたくねぇ台詞だ、アンヌ。」
「鈍感……、じゃないですよ、私。」
「ミミャ。ミャミャミャン、ミャン。」
「ほら、シュラも鈍感だっつってンだろ。」
「言っているんですか、これ? デスマスク様、猫語が分かるんですか?」
「猫語は分かンねぇが、シュラとは付き合い長ぇし。言いたい事くらいは、良〜く分かるぜ。」
「ミミャッ!」


デスマスク様は大きな手でグリグリと、シュラ様の小さな頭を掴むように覆って撫でる。
嫌そうに眉間を寄せるシュラ様は、さも迷惑げな鳴き声を上げた。
そんな一人と一匹の遣り取りを、アイオリア様は真横から目を見開いて眺めている。


「ミ、ミー。」
「どうかしましたか、アイオリア様?」
「気の置けない親友の存在が羨ましいみたいだな。ま、アイオリアには俺がいるし、羨ましがる事もないだろー。」
「ミイィ、ミ、ミー。」
「オマエの親友はカミュであって俺じゃねぇ、と言ってンぞ。」


シュラ様のみならず、アイオリア様の言葉まで分かるなんて、やっぱり猫語を理解しているんじゃないですか、デスマスク様。
世界各国の様々な言語の他に、動物の言葉までも習得しているとは、何処まで知識欲が旺盛なのだろう、この人は。


「別に猫語が分かる訳じゃねぇよ。ただ単に、性格の把握とコイツ等の行動予測が付くってだけで。」
「予測……?」
「ほら、アッチ。あの本物の猫がミャンミャン鳴いたトコで、何を言いてぇのか分かンねぇし、何をしてぇのかも予測出来ねぇしな。」


デスマスク様が顎でしゃくって指した先には、キャットタワーの中間辺りでノンビリ眠っている本物の黒猫・カプリコちゃんがいた。
つまりは猫語が分かると言うよりも、中身がシュラ様・アイオリア様だからこそ、言いたい事や遣りたい事の予想が立つ、そういう事らしかった。





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