「なる程ね〜。猫版の『月の障り』かぁ。そうかぁ。」
「あ、あの、アイオロス様っ。そのような言葉を、そのように大きな声で……。」


しかも、ニコニコ笑顔のままで、女性の『あの日』の事を言われては、私が焦るのも当然。
しかし、流石はデリカシーの欠片もない黄金聖闘士様達の集まり。
誰も、そのような言葉一つくらいでは気に掛けないし、気にもしない。
せめてアフロディーテ様くらいは、もっと気を遣ってくださっても良さそうなのに。


あれから――。
正気を取り戻したアイオロス様に、シュラ様とアイオリア様の猫化の原因を説明して。
部屋の中は、また和やかで緩い空気に包まれていた。
すっかり飽きてしまったのか、シュラ様は私の横で眠りこけ、アイオリア様もミロ様の足下で丸くなって眠っている。
ちょっとだけ悪戯心をみせたミロ様が、アイオリア様の脇腹を足の爪先で突っ付いたが、反応はまるでなし。
猫は良く眠る生き物というが、猫の姿になってしまった彼等も同じように睡眠の時間が長くなっているようだった。


「フガフガ……。」
「……シュラ様。」


横のシュラから、寝言か寝息か分からない音が聞こえてくる。
眠ったままの彼は、寝心地が良いのか、何なのか。
身体をソファーの座面にスリスリと擦り付けた後、そのままグルリと回転してお腹を上に向けた。
勿論、目はシッカリと閉じたままで。


「フガフガ……。」
「暢気だなぁ、シュラは。」
「暢気っつーか、警戒心なさ過ぎだろ。」
「原因が分かって気が楽になったのだと思います。元々、シュラ様は何を考えているのか分からないというか、悠長で危機感を感じていないようなところがありますから。」


それにしても、このヘソ天姿は無警戒過ぎるのですけれど……。
私は溜息を喉の奥に飲み込みつつ、艶やかな黒毛のお腹を撫でた。
多分、撫でられている方も気持ち良いのだろうが、撫でている方も気持ちが良い。
艶々な毛触りは、何度、触れても最高の感触だった。


「で、これからどうするつもりだ?」
「そうだなぁ……。」


天を仰いで考え出すアイオロス様。
だが、彼の思考は、思考の形を成す前にアッサリ遮られてしまった。
意外にも機敏な動作で立ち上がったデスマスク様が、アイオロス様の首の後ろ、洋服の襟をグッと掴み上げたからだ。
そして、そのまま力尽くで彼を立ち上がらせてしまった。


「ゴ、ゴフッ! く、苦しい、デスマスクッ!」
「そりゃ、苦しいだろうな。苦しいように引っ張ってンだから。」
「な、何故に、俺を苦しめる必要があるんだ?!」


もがくアイオロス様の後ろで、ニヤリと口の端を釣り上げて笑むデスマスク様。
こ、怖いんですけど、デスマスク様。
まるでアイオロス様の背後に現れた死神のようです。


「あー? 散々、執務サボって猫共と好き勝手に戯れてるアンタが、何故とか良く言えるなぁ。自分の胸に聞きゃ分かンだろ。」
「そ、それはだな……。」
「つー訳で、アンタは俺と一緒に教皇宮に直行な。」
「ならば、私も一緒に行こう。まだ頭がズキズキ痛む。早く双魚宮に戻って休みたい。」


不本意ながらもズルズルとドアへと向かって引き摺られていくアイオロス様と、その後に続いて部屋を出ていくアフロディーテ様。
デスマスク様は少しも力を緩める事なくアイオロス様の襟刳りを掴んだまま、チラと視線だけこちらに向ける。
そして、「じゃあな。」と形ばかりの挨拶をして出て行ってしまった。



→第6話へ続く


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