「でさ。ソレ、なんだけどね……。」


遠慮もなく胸の谷間の感触を楽しむシュラ様を何とか引き剥がし、バタバタと暴れる彼に大人しくさせようと四苦八苦している時。
スクッとソファーから立ち上がったアフロディーテ様が、部屋の隅へと鋭い視線を向けた。
釣られて同じ方向へ視線を向けると、そこには皆の記憶からスッカリ忘れられていた人物が……。


「ロスにぃ……。まだ、そんな状態だったのか……。」
「ミイィ……。」


ミロ様とアイオリア様が眉を下げ、呆れを含めて見遣る先。
部屋の隅でいじけ続けるアイオロス様の姿があった。
先程までは、しゃがみ込んで床に『の』の字を書き続けていた彼だが、今は膝を抱えた姿勢のまま横に倒れて固まっている。
その身体の側面に上ったり下りたり、黒猫のカプリコちゃんが好き勝手に遊んでいるが、全く気にもしてない様子。


い、生きていますか、アイオロス様?
何と言うか……、冷凍マグロか何かのように、完全に凍り付いてますけれど。


「何でまた、そんな事になってるんだい?」
「弟と後輩に拒否られたンだよ。」
「猫共に嫌がられたからだろー。」
「そんな程度で、あんな状態に?」


そんな程度とは言っても、アイオロス様にとっては結構な重大事であって、呆れるのは仕方ないとしても、そんなにも冷たい視線を向けるのは、ちょっと可哀想な気がします。
でも、執務をサボッて猫ちゃん達と散々戯れた挙げ句に、落ち込んで不貞寝しているだなんて、他の聖闘士さん(特にサガ様)から「ふざけるな!」と怒られても仕方ない状況ではあるけれども。


「だったら、アレ。サクッと殺っちゃって良いかな? このタンコブのお礼にさ。」
「おー、イイぞ。殺れ殺れ。今なら小宇宙の欠片も感じねぇからな。返り討ちの心配もねぇだろ。つか、今、殺っとかねぇと、この先、二度とチャンスはねぇぞ。」


それって卑怯じゃないですか?
弱っている時の、しかも、不意を突いて襲うだなんて。
防御どころか身構えもしてない相手に対して。


「でも、こうでもしないと、ロスにぃには絶対に勝てないからなぁ。」
「そ、そんなに強いんですか、アイオロス様って?」
「そりゃもう、強ぇのなンのって。俺等、この歳になっても勝てねぇし。」
「本当に同じ黄金なのかと疑うレベルだよ。彼に関しては、黄金の一つ上に別の位を用意しても良いくらいだね。」
「ミミャッ!」


シュラ様まで賛成ですか……。
桁違いというのはアイオロス様の為にある言葉なのでしょうね。
取り敢えず、聖闘士同士の争い(というか一方的な謀殺)を目の前で繰り広げられてはたまったものではないので、腕の中のシュラ様をけしかけて、アイオロス様の身体に飛び掛からせた。
ついでに、ミロ様の腕からアイオリア様も剥ぎ取って、仲間に加わらせる。


「ミミャー!」
「ミイィッ!」
「あ、こら、アンヌ、テメェ! 何、アイオロスを起こそうとしてやがンだ?!」
「だって、この磨羯宮で流血沙汰だなんて、絶対に食い止めなければなりませんもの。この宮の女官として当然の行動です。」
「確かに、女の子が血を見るのは嫌だよなぁ。それがロスにぃの生首だっていうなら尚更。」


ま、ままま、まさか?!
く、首を切り落とす気だったのですか、貴方達は?!
聖闘士なのだから、ある程度の乱暴は仕方ないと思っていたけれど、こうも残忍な人達だったなんて思いもしませんでした。


そんなこんなでアワアワとしている間に、猫ちゃん達のジャンピングタックル、猫キック、猫パンチ、爪研ぎガリガリ等々の攻撃に、流石のアイオロス様も無視している事が出来なくなったようで。
モゾモゾと起き上がった英雄らしからぬ彼の姿を見て、私はホッと胸を撫で下ろした。





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