アフロディーテ様にズズイッと顔を寄せられ、途端にブワッと毛を逆立てるシュラ様とアイオリア様。
そんな猫ちゃん達の様子にはお構いなく、彼は目を凝らしてジーッと猫ちゃんの目を見つめる。
まるで瞳の奥の奥、その更に奥を探るかの如くに。


「フシュー!」
「煩いな。少し大人しくしていてくれ。」


――ピシッ!


「フンギャー!」
「あああっ! し、シュラ様、落ち着いてください!」


間近で顔を覗き込まれる事に腹を立ててか、怒りの声を上げたシュラ様に対して、アフロディーテ様の容赦ないデコピンが、その狭い眉間に華麗に決まった。
力を抜いているとはいえ黄金聖闘士が繰り出すデコピン、痛いのは当然。
それまで我慢して私の腕の中に収まっていたシュラ様が暴れ出すのも、これまた当然だった。


「ミロ様、アイオリア様をお願いします。」
「あぁ、良いぞ。ほら、アイオリア。お前はコッチな。」
「ミ、ミイィ……。」
「はいはい、シュラ様。落ち着いて、大人しくしてください。」
「キシャー!」


シュラ様の向きを変えて抱き直し、ポンポンと背中を叩いて落ち着かせる。
頭から背中にかけて、ゆっくりと撫で擦り続けていると、少しずつシュラ様の怒りも静まってきた。
すると、威嚇の喉音も消え、身体の力も抜けて、スリスリと私の首元に顔を擦り付け始めるシュラ様。


「流石、エロ猫。オマエのオッパイに埋もれて、急に御満悦になりやがった。」
「シュラは猫になったところで、変わらずシュラという事か。アンヌに対するムッツリ具合は変わらないんだね。ところで、猫化の事だけど……。」


話が突然、元に戻り、皆がゴクリと息を飲む。
シュラ様だけがフガフガと私の胸の谷間に顔を埋めて夢中になっているが、今は放っておこう。
それどころではないのだ。


「どうやら原因は私の薔薇毒のようだ。」
「……は? さっき、自分は何も飲ませてねぇって言ったじゃねぇか、オマエ。」
「そうだな。新しい薔薇毒は作ってもいないし、彼等に与えてもいない。だが、瞳孔を見れば分かる。」


つまり、それはどういう事?
デスマスク様もミロ様も私も、そして、ミロ様の膝の上のアイオリア様も、皆が同様に首を傾げる。
シュラ様だけが、未だ私の胸の谷間に埋もれているが、他の視線はアフロディーテ様に集まっている状況。
ゴクリと誰かの喉が鳴る。


「これは前に服用した薔薇毒の影響だよ。以前に猫化した時のね。」
「待て待て。それで何で今また猫になってるんだ?」
「解毒したとはいえ、まだ完全には毒が抜けきっていなかったようだね。それがこうして時間を置いて、また猫化の作用を現したのだろう。まぁ、明日には元に戻るんじゃないかな。」


という事はですよ。
今回は明日にも元の姿に戻れるとしても、身体に残存する毒の影響で、また暫く後に猫化する可能性もあるという訳ですよね。


「猫化しても、精々あと一回くらいじゃないかな。そのくらいで毒も抜け切るだろうしね。」
「前回の猫化から、今が一ヶ月。つー事は、次もまた一ヶ月後か。アレだな。女の生理みてぇなモンだな。ハハッ。」


いやいやいや。
そこ、笑いどころじゃないですから、デスマスク様。
本当に明日には元に戻れるのか、確信はないですし。
一ヶ月後に、またこのような事が起きるだなんて、考えただけでも頭が痛い。


見れば、急に緩んだ空気の中、ミロ様はワシャワシャとアイオリア様を撫で回し、デスマスク様は肩の荷が下りたと言わんばかりに大欠伸し、アフロディーテ様はヤレヤレといった調子で肩を揉みながらソファーに座り込んでいる。
そして、シュラ様は変わらず私の谷間に頭を突っ込んでグリグリ中。
誰一人、危機感を持っていないであろうノホホンとした光景に、ガックリと項垂れる私だった。





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