――シャシャッ。


「ミャミャッ。」
「ほれほれ。こっちだぞ〜。」


――シュシュッ。


「ミャミャッ。」
「お、捕まえたか? いやいや、そう簡単には無理だろ。」
「ミミャッ。」


可愛いなぁ、こんな可愛い生き物が、あのシュラだなんて……。
そう呟きつつ、黒猫姿のシュラ様に玩具の猫じゃらしをけしかけるミロ様。
そんなミロ様の言葉など聞いていないのか、シュラ様は夢中になって猫じゃらしに食らい付いている。
右へ左へと、しなやかな前足を素早く伸ばし、じゃれ付くように飛び掛かる姿は、猫以外の何物でもない。


一方のアイオリア様は私の腕の中にシッカリと収まったままだ。
そこから僅かに首を伸ばして、猫じゃらしと戯れるシュラ様を興味深々に眺めている。
やはり猫だけあって、カサカサ動くものに自然と意識を持っていかれてしまうのだろう。
アイオリア様をシュラ様の直ぐ横に下ろして上げると、即座にフワフワ猫じゃらしの追っ駆けっこに加わった。


「お? アイオリアも来たのか? じゃあ、お前はコッチな。」
「ミャミャッ。」
「ミ、ミイッ。」
「アイオリア……。俺とは遊んでくれないのに、何故、ミロと……。」


楽しそうに右手と左手、両手を巧みに使って遊ぶミロ様と、それに夢中になっている猫ちゃん達。
そんな彼等を羨ましげに、いや、寧ろ恨めしげに眺めるアイオロス様の瞳は、うるうると今にも涙が零れ落ちそうな様子。
ちなみにデスマスク様はというと、この有り得ない状況を報告せねばと教皇宮へ向かった。
多分、暫くすれば戻ってくるだろう。
本来ならアイオロス様が行くべきなのだろうが、猫ちゃん達に嫌われたままで、この場を立ち去るのは口惜しかったのか、我が儘全開でココから動こうとはしなかった。
そろそろ諦めて執務に戻るべきだと私も思うんですけどねぇ……。


「仕方ないですね……。はい、アイオロス様。そーっとですよ、そーっと。」
「お? こ、こうか、アンヌ?」


流石にアイオロス様の情けない姿を、これ以上は見ていられなくなった私は、傍でノンビリと転がっていたカプリコちゃんを抱き上げ、そっとアイオロス様の腕に抱かせた。
カプリコちゃんは大人しい雌猫だ。
扱いが乱暴でさえなければ、抵抗したりはしない筈。


「そうです。力を入れないで、優しく抱っこしてください。撫でる時も、優しくゆっくりですよ。」
「優しく、ゆっくり……、だな。」
「ミャーン。」
「おっ。」


アイオロス様に撫でられて心地良くなったのか、カプリコちゃんがその立派な胸板にスリスリと顔を擦り付け始める。
そして、目を細めてミャーンと鳴き、また胸板へ顔を擦り付ける仕草を繰り返した。


「なんだ、ロスにぃ。猫と仲良くなってんじゃん。」
「そりゃあ、俺は皆のロス兄さんだからな。嫌われる理由など何処にもない。」
「凄ぇ自信満々。さっきまで、あんなに猫に嫌われて、落ち込んでたクセに。」
「調子に乗ってると、まーた逃げられンぞ。」
「あ、デスマスク様、お帰りなさいませ。」


呆れの溜息を吐きつつ、戻ってきたデスマスク様が仲間に加わる。
ソファーに座る前に、ミロ様と遊ぶ猫ちゃん二匹の頭をグシャッと撫でてから、彼はドッカリと腰を落とした。


「ソイツ、確実に面食いだからな。そもそもがアイオリアに惚れて、獅子宮に住み着いた猫だ。顔がソックリなアンタに懐いたっておかしくねぇし。」
「そういえば、カプリコちゃんはイケメン好きでしたね。」
「違う。俺の実力だ、俺の魅力だ。」


そんな遣り取りの最中でも、シュラ様とアイオリア様は、無我夢中でミロ様と遊び続けている。
ホント、危機感ねぇよな、コイツ等。
そう呟きつつ、デスマスク様がポイと投げたピンクのビニールボールは、そこから綺麗な弧を描いて、シュラ様の小さな黒い頭にポコンと見事にヒットした。





- 5/7 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -