「信じられん……。カミュから聞いてはいたが、本当に猫になってるとは……。」


未だ唖然とするミロ様と、未だミロ様にゴロゴロ擦り寄る猫ちゃん達。
一体、何が原因で、猫ちゃん達が彼に夢中になってしまっているのか。
引き剥がそうにも、手が触れただけで「シャー!」と威嚇されるのだから、余程、強く惹かれるものがあるのだろう。


「前に猫になった時は見れなかったけど、また猫化したって事か? 何で、また? アフロディーテの仕業?」
「そういえば、アイオロス様。アフロディーテ様のところに、真相を確かめに行ったのですよね? 結局、どうだったんですか?」


猫ちゃん達を含め、皆の視線がアイオロス様の方へ向く。
その期待に満ちた視線の中で、彼はフニャッと表情を崩して、ボリボリと髪を掻きながらヘラリと軽い笑みを浮かべた。


「いやぁ、それがな、アンヌ。分からんかった。」
「……あん?」
「……は?」
「……へ?」
「ミャッ?」
「ミイッ?」


集まる皆の視線が、ギラリと鋭いものに変わる。
それでも、ヘラヘラ笑いが消えないのが、アイオロス様の凄いところだ。
何故に、この状況で笑っていられるのか。
何も感じないのか、感じていても気にしないのか……。


「分からんって……、オマエ。ディーテんトコに乗り込んで、やり合ってきたンだろが? それで、なンで分からねぇンだよ?」
「いや、ほら、アイツさ。夜勤警護明けだっただろ。寝てたとこに乗り込んでったから、突然、起こされて不機嫌になっちゃって。俺の言葉を聞く間もなく、辺り一帯の薔薇攻撃だ。で、うっかり応戦しちゃったものだから、アフロディーテに一発ブチ当たって気絶してさぁ。話を聞けなくなってしまったんだよ。ハハッ。」


――ゴツッ!!


あのアイオロス様すら避けられない程に早く重い一発が、デスマスク様の拳から振り下ろされ、そして、鈍い音が部屋中に響いた。
頭を押さえ蹲るアイオロス様。
その足先を、ミロ様から離れた黒猫ちゃんと金茶猫ちゃんが、追い討ちを掛けるようにガリガリと引っ掻いている。


「ハハッ、じゃねぇだろ! 馬鹿オロス! オマエ等、もっとガリガリに引っ掻いてやれ!」
「見事に嫌われてんなぁ、ロスにぃ……。」
「猫にそれだけ好かれるお前には、俺の苦労など分かるまいよ、ミロ。ううっ……。」
「アンタのは自業自得だっつってンだろ、阿呆オロス。」


一通りの仕返しを終えて満足したらしい猫ちゃん二匹が、ヒョイヒョイと軽い足取りでミロ様の方へと戻っていく。
その途中で、私は黒い猫ちゃんを横から掻っ攫った。
ビクリと驚き、毛を逆立てたシュラ様だったが、抱き上げたのが私と知って、途端に「ミャーン。」と甘えた鳴き声を上げる。


「私よりもミロ様の方が良いのですよねー、シュラ様は。」
「ミャッ?!」
「そんなにブンブンと首を横に振っても無駄ですよ。さっきのミロ様への凄まじい擦り寄りを、ちゃんと見ていましたからね。」
「ミミャッ!」


そんな事はないとでも言いたいのか。
シュラ様は慌てた様子で「ミャーミャー!」と声を上げる。
全くもう、この八方美人猫ちゃんには、ガッツリとお仕置きしなきゃ。


「ミギャギッ!」
「駄目ですよ、シュラ様。変な鳴き声を上げても許しません。」
「ミミャー!」


猫シュラ様の弱点、ピンと尖った真っ黒な耳を摘み上げると、相変わらずなヘンテコ鳴き声が返ってくる。
私は込み上げる笑いを笑いを堪えながら、艶々なシュラ様の身体を腕の中へと抱え直した。





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