――バターン!


アイオロス様と猫のシュラ様がじゃれ合いを続ける中、響いてきたドアの音。
どなたかが、この磨羯宮のプライベートルームへと入ってきたようで。
それから直ぐに、リビングの扉がけたたましい音と共に開いた。


――バンッ!


「朝っぱらから煩い! 何を騒いでるんだ?!」
「オマエの方が煩ぇよ。もうちっと静かにドア開けられねぇのか……、っ?!」
「わっ!? わわわっ?! 何だ、これ?!」


勢い良く部屋へと飛び込んできたのは、少し不機嫌な表情をしたミロ様だった。
きっと猫ちゃん達と騒いでいた音が(主にアイオロス様の上げる大声だろうが)、天蠍宮まで響いていたのだろう。
抗議のつもりで顔を出したようではあるが、しかし、そこに待ち受けていたのは、猫ちゃん達による突進攻撃だった。


というのも、ミロ様が姿を現した瞬間、アイオロス様の横に座っていたシュラ様も、私の腕の中のアイオリア様も、離れたところにいたカプリコちゃんまで、ビクッと身体を伸び上がらせ、そして、「ミャー!」という鳴き声と共に、ミロ様へと突撃していったのだ。
しかも、三匹一斉に。
しかも、ハートマークをいっぱい飛ばしながら。


「ミャーミャー!」
「ミイィィィ!」
「ミャーン!」
「ね、猫?! 何で?! ちょ、擽ったい! 止めっ!」
「ゴロゴロゴロゴロ……。」


その突進は攻撃的なものではなく、我れ先にとミロ様に擦り寄るため。
圧倒されてしゃがみ込んだミロ様の身体中、シュラ様は左の脇腹に、アイオリア様はお腹辺りに、カプリコちゃんは肩に飛び乗って顔と髪に。
ゴロゴロと甘い喉音を鳴らして、スリスリと顔や身体を擦り寄せている。
何と言うか……、凄い光景ですね、これは……。


「何でミロにばかり……。俺には近寄っても来ないのに……。」
「アンタが乱暴で自己中で猫の気持ちを考えねぇからだろ。」
「ミロが猫の気持ちを考えているようには見えんけどな。」


不貞腐れて唇を尖らせるアイオロス様の視線の先には、猫ちゃんが群がり続けるミロ様の姿。
そうですか、羨ましいんですね、アイオロス様。
ただ、当の本人は困惑してパニック状態ですけれど。


「ゴロゴロゴロ……。」
「ミャーン、ゴロゴロ……。」
「何で、猫が? 何で、俺に? 何の攻撃だ?!」
「凄ぇ、吸猫力。オマエ、マタタビ族か?」
「何ですか、マタタビ族って?」
「知らねぇのか、アンヌ? マタタビの匂いを含んだ汗が出るっつー非常に珍しい一族だ。ミロス島辺りで確認されてるらしいぜ。」
「平然と嘘吐くな、蟹! そんな民族、聞いた事もないぞ!」


それがデスマスク様の嘘だと分かっていても、ミロ様からは本当にマタタビの匂いが漂っているのではないかと疑ってしまう。
そう思える程に、擦り寄る猫ちゃん達の表情は、陶酔状態そのものだ。


「おおう、擽ったいってば! 腹に潜るな、首にスリスリすんな!」
「まるで猫のなる木だな、こりゃ。」
「俺も猫のなる木になりたい! 寧ろ、アイオリアのなる木になりたい!」
「煩ぇよ。アンタは黙っとけ。」


ミロ様の横に仁王立ちし呆れの溜息を吐くデスマスク様と、その横で滝涙を流すアイオロス様。
ただし、二人共にミロ様を助ける気はないらしい。
いや、下手に手を出すと、猫ちゃん達から怒りの攻撃をされかねないからだろう。


「ちなみに、腹に潜り込んでる金茶の猫。それ、アイオリアだからな。」
「何っ?! アイオリア?! マジで?!」
「脇腹のがシュラな。顔に擦り寄ってンのが、アイオリアんトコの猫。アンヌ、なンだっけ、名前。」
「カプリコちゃんですよ。」


ミロ様は驚愕の表情をし、驚愕の声を上げつつ、脇腹からシュラ様を引き剥がして抱き上げる。
何処をどう見ても、猫にしか見えん。
ブラーンと揺れるシュラ様の身体を繁々と眺めた後、彼は目を真ん丸にして、そう呟いた。





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