3.騒動、拡大



アイオロス様が恨めしげにコチラを見ているけれども、気にしない。
気にしたら負けよ、うん。
だって、腕の中のアイオリア様も、まだ微かに震えているもの。


「つー事で、アンタ。そこでお座りしてな。」
「何っ?! お座りとは何だ! 俺は犬ではないぞ、デスマスク!」
「だから、デケー声を出すなっての。見ろ、お前の可愛い弟猫が、まーたビビってンだろが。」


ウグッという呻き声の後、思い切り唇を噛み締めて、アイオロス様は渋々、床に腰を落とす。
このくらいの距離があれば、如何にアイオリア様が可愛かろうと、飛び付こうにも飛び付けない。
しかし、何故に正座なのでしょうか。
身体が大きいので、足が痛そうです……。


「何故に、このような屈辱を……、ううっ……。」
「アンタが悪いンだろ。可愛い自分の弟を怖がらせたからだ。」
「ミイッ。」
「アイオリアまで……。そんなに大きく頷かなくても、ううっ……。」


私の腕の中で、ブンブンと首を大きく上下に振るアイオリア様。
そうですか、そんなに怖かったのですか。
取って食うとかいう言い回しがありますけど、アイオロス様のあの状態じゃ、本当に取って食べてしまいそうでしたものね。


と、離れた場所から鋭い視線を感じて振り返ると、先程までアイオリア様が入り込んでいたキャットタワーの真ん中の箱から、シュラ様が黒く小さな頭を出して、コチラの様子を窺っていた。
さっきアイオリア様がコチラを見ていた時は、顔を半分だけ出して何とも可愛い窺い方だったけれど、今のシュラ様は首から上を全部をニョッキリと出している。
ちょっと黒猫ちゃんの生首みたいで怖いんですけど、シュラ様……。


「ミャッ。」
「……ん、シュラ?」
「ミャン。」


そして、私達の状況を見極めたのか、シュラ様はヒョイと身軽にキャットタワーから飛び降りると、ゆっくりと歩を進めて、アイオロス様の横までやって来た。
そのまま正座するアイオロス様の隣に並んで座り込み、何か言いたげにミャンミャンと鳴き声を上げる。
猫にも縋る思いで横の猫ちゃんを見下ろすアイオロス様と、何を考えているのか分からない表情で彼を見上げるシュラ様。


「何だ? シュラは俺と一緒に反省してくれるのか?」
「ミミャン。」
「そうですね。アイオリア様の気持ちも考えずに好き勝手な行動をするシュラ様は、そこで一緒に反省するのが良いと思います。」
「ミャー!」


とはいえ、全然、反省するつもりはないみたい、この猫ちゃん。
何となく仲間外れになっているのが嫌で傍に来ただけのようで。
何となくアイオロス様の様子が哀れに見えて、隣に座ってあげているだけのようです。
それが証拠に、ほら。
シュラ様を撫でようと伸ばしたアイオロス様の手は、「シャー!」という威嚇の鳴き声と共に、前足でサッと払われてしまった。


「気を付けろよー。ソイツ、猫の姿とはいえ、シュラだからな。前足はキレッキレの聖剣だぞ。」
「うおっと?! それを早く言えよ、デスマスク!」


ちょっと腕が切れちゃったじゃないか。
アイオロス様はそう零しながら、シュラ様に払われた手を擦る。
その横で、ピンと背を伸ばして座る黒猫姿のシュラ様は、気持ち頭を後ろに反らして、フフンと高飛車に鼻を鳴らしたのだった。





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