……って、あれ?


何だろう?
何だか目眩がするような?
目の前がグルグル回って見えているような?


「どうした、アンヌ?」
「いえ、多分、立ち眩みかと……。」


と言っている間に、視界に映る景色がグラリと傾いた。
間一髪、デスマスク様が、その腕で抱き留めてくれたから良かったものの、彼が私の体調の変化に気付かなければ、そのまま床に倒れ込んでいたかもしれない。


「なしたよ、突然? さっきまで元気だったじゃねぇか……。って、オマエかあぁぁぁ!!」
「うおっ?! 何をする、デスマスク?!」
「テメェな! よくよく見りゃ、その身体中に付着してる薔薇! アフロディーテの薔薇じゃねぇのか、そりゃ?!」


アフロディーテ様の薔薇?
という事は、白い薔薇の花弁はブラッディーローズ。
黒い薔薇の花弁はピラニアンローズ。
赤い薔薇の花弁は……。


「あぁ、これはロイヤルデモンローズだな。さっきアイツと一戦交えてきたから、花弁塗れになってるのは仕方ない。」
「仕方ねぇとか、シレッと言うンじゃねぇ! 毒薔薇だろ、それ! 早く外行って、全部払い落として来い! 俺等は平気でも、アンヌは一般人だ、長く吸うと死ぬぞ!」


霞んだ視界の中、デスマスク様の怒声で目を覚ましたシュラ様が、首を上げてキョロキョロと部屋を見回しているのが見えた。
折角、心地良く眠っていたのに、結局は起こされてしまったんですね、シュラ様。
ぼんやりした頭の中で思っていると、ソファーから身も軽やかに飛び降りて、デスマスク様に抱えられた私の横へとやってくる。
シュラ様は平気なのかしら、この薔薇の香気。
耐毒修行をしている黄金聖闘士とはいえ、小さな猫の身体になってしまった今は、耐え切れるのか分からないから心配だわ。
なんて、こんな状態で倒れている私に心配されたって困るだけね。
ペロペロと手の甲を舐めてくるシュラ様の小さな黒い頭を撫でて上げると、「ミャーン。」と短い鳴き声が返ってきた。


「戻ったぞ。」
「戻ったじゃねぇよ。のほほんとした顔しやがって。見ろ、アンヌのこの状態を。」
「シャー!」
「お、シュラまで怒ってるのか? 大袈裟だな、全く。」
「ミギャー!」


シュラ様ったら、そんな小さな身体になっても、私の事を守ろうとしてくださるなんて。
全身の毛を逆立てて、威嚇の鳴き声を上げている姿は、本気で怒っている事を示している。


「いやぁ、スマンスマン。一般人のアンヌが居る事を、すっかり失念していた。」
「あの……、もう大丈夫ですから、私。」
「ホントか? 無理すンじゃねぇぞ、元から弱っちい身体してンだから。」
「ミミャッ!」


抱える腕の中から身体を起こした私に対して、顔も態度もぶっきら棒でも、心配気に言葉を掛けてくれるデスマスク様。
そして、同意するように高い鳴き声を上げるシュラ様。
この騒ぎに目を覚ましたのか、キャットタワーの箱からアイオリア様が顔を出して、コチラの様子を窺っているのが見えた。
小さな顔を半分だけ箱から出して、警戒しながら様子見している姿は、胸がきゅんきゅんする程に可愛らしい。
その愛らしさによる癒し効果は、目眩で倒れていた事など忘れさせてしまうくらいだった。





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