それにしても無防備過ぎるわ。
元より眠ってしまえば全く目を覚まさないシュラ様だけれども、今は猫の姿。
何かあった場合は、身軽さを武器にして逃げるくらいしか出来ない状況なのに、こんなにグッスリ眠りこけているだなんて。
しかも、仰向けでお腹丸出し。
私は兎も角として、デスマスク様に悪戯(という名の攻撃)をされてもおかしくないというのに。


「フニャフニャ……。」
「平和ボケしてやがる。」
「人の姿で眠っていても、余り感じないですけど、猫の姿だと全く危機を覚えてないんじゃないかって気がしてきますよね。」


そう言っている私も、艶々お腹をワシャワシャ撫でる手が止まりそうにないのですけれど。
それを呆れて見ているデスマスク様の視線が痛いんですけど。


――ドスドスドスッ!


「デスマスク、居るか?!」
「煩ぇよ。静かにしろ。」


まったりと猫ちゃん達の可愛らしい寝姿を堪能していた中、騒々しい足音を響かせて現れたのは、予想通りアイオロス様だった。
勢い良くドアを開け放ち、飛び込むように部屋へと入ってきた彼に、デスマスク様はギロリと鋭い視線を投げ、そして、静かにしろと指を自分の唇に当てた仕草で窘める。
教皇補佐である人が、後輩聖闘士に窘められるって、どうなんだろう……。
普段は裏が読めなくて、のほほんとしているようで鋭くて、決断力も行動力もあって、正直、不気味に怖い人ではあるのに。
今日のようにテンションが上がってはしゃいだ様子の時は、まるで小さな子供のようだ。


いや、その前に、アイオロス様。
全身、頭から肩から背中から、カラフルな薔薇の花弁塗れなんですけど、一体、何処で何をしてらしたんですか?
何処ぞの結婚式で、フラワーシャワーでも浴びてらしたんですか?


「バタバタ煩ぇンだよ、起きちまうだろ。」
「それは……、もしやシュラ、か?」
「えぇ、シュラ様ですね。思い切り無防備ですけど。」
「そうか、シュラ様まで猫化してしまったのか……。しかし、見事なヘソ天だな、これは。」


ソファーの上に猫と化したシュラ様の姿を見留めた途端、アイオロス様の視線がキリリと真剣なものへと変わった。
でも、変わったのは眼差しだけで、その手は無意識にかシュラ様の丸出しなお腹をワサワサと撫で擦っている。
結局は、猫ちゃんの愛らしさには勝てないというところかしら。


「で、アンヌ。アイオリアは何処だ? デスマスクの小宇宙をこの宮から感じたから、アイオリアも一緒に居ると思ったんだが。」
「居ますよ、そこに。そのキャットタワーの真ん中の箱の中で眠っています。」


私が指で示した先、キャットタワーの中を覗き込むアイオロス様。
最初は疑問符を浮かべたような顔をしていた彼も、箱の中でクルンと丸まってスヤスヤと眠っている猫ちゃんの姿を見るなり、ピコーンと頭の上に何かのスイッチが入ったように見えた。
その反応は大いに分かります。
だって破壊的に可愛いのですもの、もふもふ金茶毛のアイオリア様は。


「デスマスク!」
「あー、なンだ? つか、静かにしろって言ったろ。ンな、でけー声を出したら、目ぇ覚ましちまう。」
「カメラは何処だ?」
「……は?」
「このアイオリアの超絶可愛い姿を記録に残さずして、どうする?! いや、写真じゃ駄目だ! 動画だ! 動画に収めて、いつでも見られるように保存しなければ!」
「オマエ、本当に……。」


いい加減にしてくれ。
うんざりした顔でガックリと項垂れたデスマスク様は、肺の中にたっぷりと溜め込んだ溜息を、盛大に吐き出したのだった。





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