「……寝てる。」


朝食を食べ終え、後片付けまで終えてから、リビングへと戻ると、シンと静まり返った部屋の中で、三匹の猫ちゃんはグッスリと眠り込んでいた。
シュラ様はソファーの上で、その下のカーペットの上にはカプリコちゃんが、そして、キャットタワーの真ん中辺り、鳥の巣箱のような形の箱の中ではアイオリア様が丸まって眠っている。


「食って寝て、食って寝て。まさに猫だな。」
「幸せいっぱいですねぇ。」


猫の姿になっている間は、聖闘士としての仕事も役目も何処かへ消えてしまうのだろうか。
ノンビリ気儘に、気分と本能に従って行動している。
遊んで、食べて、眠って。
甘えて、やんちゃして、我が儘全開で。
まぁ、シュラ様は本来から、そういう性質なのだと言えば、そうではあるけれども。


「猫は一日の殆どを寝て過ごす生きモンだからな。食ったら寝るし、起きたら遊ぶし、遊んだら、また寝るし。」
「たまには、こういうお気楽な時間があっても良いのかもしれないですね。いつも命を懸けて戦っているのですから。」
「だったら、俺にも気楽な時間を分けて欲しいモンだな。」


グッスリ眠るシュラ様の眉間を、指先でグリグリと突っ付くデスマスク様。
ウウウッと小さな呻きが漏れるが、シュラ様が目を覚ます事はなかった。
ただ、無意識にか、僅かに身体を伸ばし、指先から逃れるように顔を逸らすだけ。


「デスマスク様も猫ちゃんになってみます? アフロディーテ様のお薬を飲んで。」
「やなこった。それだけは勘弁してくれ。」


デスマスク様は、気晴らしの出来る自由な時間が手に入る猫の姿になるよりも、人間のままでいる事を選ぶという。
それはそうだろう。
猫になってしまっては、聖闘士として戦う事も出来ず、それどころか、こうして皆の手を借りなければ、まともに生活すら出来ないのだから。
例え少しの時間だけの事とはいえ、私などに世話を焼かれるのは、デスマスク様にとって屈辱以外の何物でもないのだ。


「アイオリア様は兎も角、シュラ様は猫の生活を謳歌しているように思えますけれど。」
「ホンット、コイツは危機感がねぇっつーか、なぁ。少しは焦ったり、申し訳ねぇって態度でもあれば、もうちっと可愛げが出ンのによぉ。」
「アイオリア様の謙虚さを、少しは見倣って欲しいものですね。」


私達に悪口を言われているとは露知らず、お気楽そのものな様子で寝転んでいるシュラ様は、深い眠りの中で意識が緩んだのか、丸まった身体が次第にダランと伸びてきていた。
そして、ヴヴヴと鼻から寝息を漏らし、遂に伸び切った身体が、ゴロンと仰向けに返ってしまう。


「ヘソ天……。」
「見事なおっぴろげだな、こりゃ。なンつー無防備な……。」
「警戒心の欠片もありませんね、このお腹全開ポーズは。」


シュラ様のお腹……、お腹可愛い。
思わずワシャワシャと撫で擦ってしまうが、シュラ様は全く目覚める気配はない。
それどころか、そのまま撫で続けていると、フガフガと心地良さ気な寝言らしき声まで発する始末。
撫でる艶々の毛は気持ち良いし、無防備な寝姿は破壊的に可愛いし。
何ですか、この愛くるしい生き物は。
私をメロメロにして悶死させる気ですか?


「だからよ、アンヌ。コレ、シュラだからな。分かってると思うが、あのむさ苦しいシュラだから。」
「分かっています……。」


分かってはいますけれど、可愛いものは可愛いのだ。
中身が、あのシュラ様であろうと、この黒猫ちゃんが物凄く可愛い事に変わりはない。
今、目の前にデスマスク様が居なければ、私は確実に、もふもふな猫ちゃんのお腹に、顔をスリスリと擦り付けていただろう。
それが出来なくて残念な気持ちでいっぱいなのだが、その思いは何とか心の奥に押し込めた私だった。





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