2.騒動、勃発
――カッカッカッ……。
――モッモッモッ……。
黒、金茶、黒。
横並びで餌のお皿に向かう三匹の、愛らしい頭頂部が目の前で揺れている。
その小さな頭の上には、ピンと尖った三角の耳がピョコピョコと揺れ動く。
可愛い……。
ずっと眺めていたいくらいに可愛い……。
「オイ、こら、アンヌ。メシが冷めるぞ。いつまで眺めてる気だ?」
「す、スミマセン、つい……。」
慌ててテーブルに着き、フォークを手に取る。
既に食べ始めていたデスマスク様は、一旦、その手を止めて、呆れた様子で溜息を吐いた。
ベーコンを乗せたパンに齧り付けば、パリッと良い音が響く。
そして、その音を聞き留めた……、訳ではないと思うけれど、ほぼ同じタイミングでシュラ様が餌のお皿から頭を上げた。
見れば、お皿の上は綺麗に何もなくなっていた。
「あんなに量が少なくて、お腹いっぱいになるんでしょうか?」
「猫は少食だからな。あンなモンだろ。」
「でも、シュラ様とアイオリア様ですよ。元はあんなに大食漢のお二人なのに。」
「気になンなら、コイツ等に聞いてみればイイじゃねぇか。」
ベローンと長い舌を出して、餌のカスが付着した口周りを舐め取るシュラ様に向かって、デスマスク様が手招きをする。
が、フンと鼻を鳴らして顔を背けたシュラ様の態度に、気短なデスマスク様の額にはビキビキと青筋がクッキリと浮かび上がって……。
あわわ、このままでは不機嫌が極まった彼に、私が八つ当たりされかねない。
慌ててシュラ様を呼ぶと、今度はちゃんと私達の居るテーブルに向かって、テッテッテッと歩いて近寄ってきた。
――げふぅっ。
「見事なゲップだな、オイ。」
「気持ち良さそうですねぇ。あの量で満足しましたか、シュラ様?」
「ミャン!」
「わっ?!」
返事と同時に、私の膝の上へと飛び乗ってくるシュラ様。
そのまま私のお腹に、グリグリと小さな頭を押し付けてくる。
く、擽ったい……。
いや、それよりも、まだシュラ様の口の周りには細かに餌が付着していて、そんなに擦り付けられると、白い女官服なので汚れが非常に目立ってしまう事に。
「シュラ様、あの、まだ食事中ですので、膝に乗られると、ちょっと……。」
「ミャッ?」
「意味分かンねぇって顔して、とぼけやがる。ハッキリ言ってやらねぇと、コイツ、絶対にどかねぇぞ。」
「ミャッ。」
「ひゃっ! だ、だから、擽ったいですってば!」
グリグリお腹潜りが、更に悪化。
全然、聞く耳を持たないのね、この人は。
いえ、この猫ちゃんは!
えぇい、こうなったら奥の手だわ!
「言う事を聞かない猫ちゃんには、こうします。」
「ミギャッ?!」
黒猫と化したシュラ様の最大の弱点。
ピンと上を向いた黒い両耳を、ちょっと強めに摘んで引っ張る。
すると、予想通りにおかしな鳴き声を上げて、ビクッとスリムな身体を強張らせたシュラ様。
その隙にヒョイと抱き上げ、猫ちゃんを床へと降ろす。
「食事が終わるまでは、アイオリア様とカプリコちゃんと、向こうで遊んでいてください。」
「ミャー!」
「怒ってンぞ、アンヌ。相変わらず我が儘なヤツだな。」
「猫ちゃんになると、我が儘具合が強くなりますね、シュラ様。」
溜息を吐きつつ、その姿を眺めていると、直ぐに諦めてしまったのか、アイオリア様の後を追ってダイニングから出ていくシュラ様。
気紛れなのは猫ちゃんだからか、それとも、元よりのシュラ様の性質なのか。
パタパタと走り去る音を耳の奥に聞きながら、私はもう一度、溜息を吐いた。
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