「シュラ様、グラスを……。」
「あぁ、すまんな。」


トクトクと注ぎ足すシェリーの水面が揺れ、テーブルクロスに波形の影が映る。
あれだけ大量に用意していた料理も、あっという間に食欲旺盛なシュラ様の胃袋の中へと消えてゆき、既に半分程に減っていた。
これだけ食べても、この見事なスタイル。
聖闘士の修練は、相当なエネルギーを使うと分かっていても、この食欲を目の当たりにすると、食べ過ぎなのではないかと思えてしまう。
でも、彼が全く太らない事を思えば、私の予想以上の体力・筋力を酷使しているという事だろう。


「ミャーン。」
「むっ?」


いつの間にやら、食事を終えていた黒猫ちゃんが、テーブルの下でシュラ様の足先にじゃれ付いていた。
足を組んでいるため、身動きする度にユラユラ揺れる彼の足先は、格好の遊び道具のようだ。
だが、ミャンミャンと飛び掛かられるのが邪魔なのか、シュラ様は揺れるその爪先で、軽く猫ちゃんの身体を蹴り飛ばした。


「ミミャッ。」
「わっ?! 吃驚した!」


シュラ様に突き放され、テーブル下をコチラへと向かってきた猫ちゃんが、突然、私の膝の上に飛び乗ってくる。
驚きで呆然とする私の顔を、暫く見上げていたかと思えば……。
チョコンと膝に座った姿勢のままで、その小さな頭をグリグリと胸の谷間に押し付けてきたではないか。


「ひゃっ! 擽ったい!」
「ミャッ。」
「…………。」


流石に、そのまま放っておくという訳にもいかなかったので、胸に潜り込む頭を何とか押し遣り、猫ちゃんの身体の向きを逆に変えて、膝の上に乗せた。
今は、テーブルを挟んでシュラ様と向かい合う形になっている。
私の視界には、艶々毛並みの小さな頭と、時折、ピクリと動くピンと尖った耳が映っている。
ううっ、可愛い、噛んでしまいたい、食み食みしたい。


「似ているのは見た目だけかと思っていましたが、まさか、こんな行動までソックリなんて……。」
「似てないだろう。俺はそんな事をした覚えはない。」
「自覚なかったのですか、シュラ様……。」


黒猫姿になっていた時、これでもかと人の胸に顔を埋めていたというのに。
あれを無自覚でやっていたとしたなら、何てタチの悪い……。


「目の前に好きな女の胸があったら、潜り込みたくなるのは男の本能だろう。」
「という事は、自覚あったんじゃないですか、シュラ様。」
「だが、そいつは雌なんだろ? 雌でも潜り込みたくなるような胸だという事だな、アンヌの谷間は。」
「ミャーン。」


まるで返事のように一声鳴いて、こちらを振り返り見る猫ちゃん。
果たして、その評価は褒められているのか、けなされているのか。
取り敢えずは、褒められているのだと思い、猫ちゃんの頭を数度、撫で撫でしてから、そっと床に下ろしてあげた。
すると、ダダダと軽い足音を残し、猫ちゃんはリビングの方へと走っていってしまった。


「何だか、すっかりペースを乱されちゃいましたね。」
「仕方ないだろう。だが、この先、数日は、これが続くのだぞ? 預かると決めたのは、お前だ、アンヌ。」
「すみません、シュラ様。」
「別に、お前を責めてはいない。だが……。」


ガタリと音と立てて席を立ち、私の横へと移動してくるシュラ様。
今日は俺の誕生日なのだから、もっと俺だけのために尽くして欲しかったものだな。
そう耳元で告げられて、私の心がドキリと大きな音を立てると同時に、申し訳ない気持ちも大きく湧き上がっていた。





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