「シュラ様。お食事の用意が出来まし――、あっ。」


漸く夕食のテーブルが整い、リビングで待っている彼を呼びに出ていったところ、先程の睨み合いとは、また違った光景が広がっていた。
長ソファーの真ん中に陣取り、ドッシリと座り込んでいるシュラ様と、その膝の上に丸まって眠る黒猫ちゃん。
僅か数十分の間に、随分と関係に変化があったようだ。


「仲良しになられたのですね、随分と。」
「俺の手に掛かれば、こんなもんだな。猫も屈服させてしまえば、大した事はない。」


だから、屈服って何ですか、屈服って。
本当にこの人は、普通の人とは違うというか、斜め上を突き進んでいるというか……。
猫ちゃんと仲良くなりましたという事で良いと思うのだけれども、彼にとっては、そうではないらしい。


「ミ、ミャー……。」
「起きたか?」


どうやら少しウトウトしていた黒猫ちゃんが、私達の会話を聞いて、目を覚ましたらしい。
シュラ様の膝の上でググッと伸びをした後、クワワッと大口を開けて大欠伸。
そのまま彼のお腹辺りにスリスリと顔を擦り付けている様子は、大好きな飼い主に甘えているようにも見える。
しかも、シュラ様も無意識にか、その艶々した小さな頭を優しく撫でているし。


「シュラ様……。カプリコちゃんは雌、ですよ。」
「だから何だ?」
「その子、シュラ様にベタ惚れじゃないですか。」
「違う。惚れているのではない、屈服しただけだ。」


だから意味が分かりません。
話が噛み合わず、零れ出る溜息。
このままだと、何を言っても平行線なのは分かり切っていたので、それ以上の会話は諦めた。
その代わり、シュラ様の身体に擦り寄り続ける黒猫ちゃんを、引き離すように抱き上げる。


「ミャッ?!」
「はいはい、シュラ様とラブラブする時間は終わりですよ、カプリコちゃん。ご飯ですからね。」
「ミャー!」
「お前も結構、強引なのだな、アンヌ。」
「だって、このまま放っておいたら、いつまでもあのままでしょう?」


最初こそジタジタと暴れた黒猫ちゃんも、直ぐに大人しくなり、私の腕に黙って抱かれている。
流石に『良い子』と評判の猫ちゃんだ。
アイオリア様の普段からの躾の賜物なのか、元々の性格が従順なのか。
黒猫姿だった時のシュラ様と、見た目はソックリなのに、中身は全然違っている。
そんな事を思いながら、そっと餌箱の前に下ろしてやれば、カッカッと餌を食べ始める姿が、また愛らしい。


「俺も腹が減った。」
「さ、私達も食事にしましょう。今日はシュラ様の好きなものばかりですよ。ワインはどうしますか? 何を開けましょうか?」
「そうだな……。たまにはシェリーにしよう。前にスペインで入手した、とっときのがあった筈だ。」


言われて、一番高級なシェリー酒を取り出す。
テーブルの上に並ぶ豪華なお料理。
メインのお肉は出来立てのローストビーフ、ニンニクのスープに、烏賊のフライ、鰯の酢漬け、渡り蟹のパスタ。
そして、アボカドと海老とライムのペーストと、生ハム・ハモンセラーノ、豆のトマト煮込み、炒り卵などは、好きな組み合わせでパンに乗せて食べれば、ピンチョスのようになる。
テーブルいっぱいに並べられたお料理に、シュラ様の目が嬉しそうに輝き、彼は嬉々(イソイソ)と席に着いた。
そして、モクモクと餌を食べ進める黒猫ちゃんの後ろ姿を横目に、シュラ様と私はグラスに注いだシェリー酒を掲げ、彼の誕生日を祝って乾杯をしたのだった。





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