――翌朝。


「ううっ、腰痛い……。」


昨夜、予想通りにシュラ様の激しい夜の営みに延々と付き合わされた私は、痛む腰を擦りながらキッチンに立っていた。
そのシュラ様といえば、あれだけ頑張りに頑張り抜いたにも係わらず、今朝も早くから起き出して、日課の早朝トレーニングへ意気揚々と赴いたのだから、凄いというか何というか。
全く、どれだけ体力が有り余っているのだろう、彼は。


そして、心地良く汗を掻き、艶々した顔色で戻ってきたシュラ様は、今、ご機嫌でシャワーを浴びている真っ最中。
彼が出てくるまでには、朝食の準備を終わらせなくては。
でも、痛む腰のせいか、いつものように機敏には動けない私……。


「オイ。アンヌ、いるかぁ?」
「デスマスク様?」


丁度、朝食の支度が整った頃、入口の方から聞こえてきたのは、デスマスク様の声。
腰を擦りながらも、小走りでリビングへと向かった私が見たのは、小さなバスケットを手に、立ち尽くしている彼の姿だった。


「どうかされたのですか?」
「いや、それがなぁ……。」
「ミャーン。」


ん?
今のって、猫ちゃんの鳴き声?
いや、多分、幻聴よ。
昨日の別れが突然だったから、名残惜しさでいっぱいな心が、勝手に幻聴を聞かせたのだわ。


「ミャーン。」
「幻聴……、じゃない?」
「おう、見ろ。」


差し出されたバスケットの中を覗き込めば、その中には、まだ生まれてから、そんなに日が経ってないだろう小さな仔猫が二匹。
くりくり真ん丸な瞳で、コチラを見上げている。
しかも、一匹は短毛の黒猫。
もう一匹は長毛の白猫だ。
あの日、夢で見た、シュラ様と私みたいだわ、なんて思った事は、心の奥に隠しておくとして。


「わっ。可愛い。仔猫ちゃん?」
「昨日の煙草屋のオヤジがな。引き取ってくれって煩くってよぉ。仕方なく、面倒見る事になっちまった。」
「良いなぁ。可愛い……。」
「なンだ? オマエんトコの横暴山羊は、猫も飼わせてくれねぇってか? 猫に嫉妬するってな、了見の狭ぇ山羊だな。」


――ガゴッ!


「痛っ!」
「誰が、横暴山羊だ、誰が?」
「ぁあ?! 貴様に決まってンだろうが!」


そして始まる、派手な罵り合い喧嘩。
あぁ、このお馴染みの光景を見ていると、またいつもの日常に戻ったのだわと、しみじみ思う。


「大体、何をしに来た? 猫など連れ歩いて。」
「昨日の猫缶、余ってンだろ。それを取りに来たンだよ。あと、猫のトイレも。」
「だったら早く持っていけ。そして、早く帰れ。」
「ええっ? もう少し、仔猫ちゃんを見ていたいです。」
「ミャーン。」
「今日も変わらず横暴山羊だな。仔猫に嫉妬ってオマエ、人としてどうよ?」


二人と二匹の視線を受けつつ、畳みかけられるように攻められたとあっては、流石のシュラ様も少しだけたじろいだ模様。
無表情ながらも、何処となく動揺しているのか、瞳が僅かに揺れている。


「デスマスク様。猫ちゃんに会いに、巨蟹宮に遊びに行っても良いですか?」
「おー、来い来い。いつでもな。あンな横暴山羊なんざ放っておいて、好きなだけ猫と戯れていけ。」
「シュラ様、良いですよね?」
「…………。」
「良い、ですよ、ね?」
「……程々にするなら、な。」


やった!
これで猫は飼えずとも、可愛い猫ちゃんを愛でる事は出来る!
寂しくなったら巨蟹宮へ行けば、猫ちゃんと好きなだけ戯れることが出来るのだわ!


「アンヌ、そんなに猫が好きか?」
「自分では、そうとは思っていなかったのですけど、実際は好きだったみたいです。今回の事で実感しました。」
「そう、か……。」


大きな溜息を吐くシュラ様。
何だろう、私が猫好きだと嫌なのだろうか?
単なる嫉妬の割には、渋々過ぎる雰囲気だ。


「んじゃ、戻るわ。アンヌ、いつでも遊びに来いよ。」
「あ、はい。直ぐに行きます。」
「そんな直ぐに行かなくとも、猫は逃げんぞ、アンヌ。」


もう一つ、今度は呆れの溜息を吐くシュラ様。
そんな遣り取りの中、デスマスク様(よりも主に猫ちゃん)を見送ろうと、足を進めた時だった。


――バターンッ!!


壊れてしまいそうな勢いで、入口のドアが開かれた。





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