――ごそごそ……。


暫くの間、シュラ様の身体の温かさに浸っていた私だったが、何かゴソゴソと動く気配を感じて、閉じていた瞼を開いた。
落とした視線の先には、シュラ様の大きな手が映っている。
私の背に回っていた筈の、その手は、今、ウエストから伝って腰骨をなぞり、腿まで這っていったかと思えば、そのままスカートを上へ上へと捲り上げていく。


「シュラ様……、何をなさっているのですか?」
「お前の身体に触っている。それが、どうした?」


どうした、ではありません!
何故、どうして、今、この時に、私の身体を触る必要があるのですか?!


「一日も我慢させられたんだ。お前に飢えているからに決まってるだろ。」
「たった一日じゃないですか。」
「一日だろうと、俺は我慢出来ん。するぞ、アンヌ。」
「え?」


するって、何を?
見上げれば、シュラ様がクイッと顎で指し示した先は、ドアの中、二人の寝室だ。
そして、その視線を追えば、彼が見ているのは、間違いない、キングサイズのベッド。
つまりは、その……、男女の営みをしたいとの主張だった。


「ま、まだ昼間です、よ?」
「関係ない。」
「せめて夜まで待てないですか?」
「待てんな。」


言うが早いか、私を抱き上げようと身体を屈めたシュラ様。
こうなってしまっては、彼に逆らうのは難しい。
下手に抵抗するよりはと思い、覚悟を決めた、その瞬間……。


――ボゴッ!


鈍い音が響いた。
顔を上げると、シュラ様の背後に人影があった。
鬼の形相をしたマフィア顔は、間違いない、デスマスク様だ。


「オイ、コラ。昼間っから盛ってンじゃねぇぞ、万年発情黒山羊が。いや、発情黒猫だったか、あ?」
「デスマスク、貴様っ。」
「俺を睨み付けてる暇があンなら、行くぞ。」


遠慮の欠片もなく、思い切り殴ったのだろう。
頭を押さえて蹲るシュラ様の腕を引っ張り上げ、デスマスク様は半ば無理矢理に立ち上がらせた。


「行くって、どちらへ行かれるのですか?」
「報告だよ、報告。教皇宮に行って、サガ達に事の結末を知らせねぇとな。アイオリアは……、まぁ、今日のところは休ませてやるか。」
「なら、俺も……。」
「オマエは元気いっぱいだろが。アンヌを押し倒せるくれぇにはなぁ。」


いつもように口角を上げてニヤリ、それはそれは意地悪そうに笑うと、立ち上がらせたシュラ様の肩を逃げられないよう抱き込むデスマスク様。
渋面を顔中に貼り付けたシュラ様は、チッと小さく舌打ちをして、だけど、もうすっかり諦めてしまったようだった。


「アフロディーテは?」
「逃げやがった。」
「何?」
「アイオリアと同じだ。オマエ等が戻った気配を察して、窓から逃げやがった。」
「窓って……。」


確か、あの客室も、シュラ様の寝室と向きも造りも同じ筈。
窓の外は断崖絶壁、真下は深い森だ。
落ちたら大怪我どころの話ではない。


「ま、逃げたところで、直ぐにアイオロスのヤローに取っ捕まるのがオチだな。逃走したって無駄無駄。」
「全く馬鹿な奴だ。」
「テメェが言うなよ。あのマッド魚の怪しい紅茶を、何の疑いもなく受け取ったオマエがな。」


とばっちりを食らっただけのアイオリア様とは違う。
アフロディーテ様の過去の悪行の数々を知っていて尚、彼が渡した紅茶を疑いもしなかったシュラ様。
人を信頼しているからなのか、それとも、デスマスク様の言う通り、ちょっと抜けているのか……。


「オラ! とっとと行って、とっとと終わらせてくンぞ! これ以上、面倒事に付き合ってられるか!」
「あ、あぁ……。」


シュラ様は大きく一つ溜息を吐いてから、ポンと私の頭を叩くように撫でると。
前を歩き出したデスマスク様を追って、颯爽と磨羯宮を出て行った。





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