「た、大変だっ!」
「あ、アイオリア様。おはようございます。」


乱暴にドアを開けて部屋へと飛び込んできたのは、息を切らして荒い呼吸を繰り返すアイオリア様だった。
しかも、何故か腕に猫を抱いている。
真っ黒で艶々した毛並みの可愛い猫ちゃんを。


「あ、あぁ、アンヌ。昨日はすまなかった。礼の一つも言わぬまま帰ってしまって。」
「いえいえ、良いんです。それよりも……。」


私の視線は、彼の腕の中の猫ちゃんに釘付けだ。
何やら物珍しげにキョロキョロと辺りを見回し、それから、私の顔をジッと見つめて首を傾げている。
か、可愛い……。


「そ、そうだった! コイツなのだが、朝、トレーニングに行こうと部屋を出たら、宮の入口のところに座っていたんだ。その時は、どうせ野良猫だろうと思って追い払ったんだが、戻ってきたら、また同じ場所に居座っていてな……。」


余程、獅子宮の入口が気に入ったのですね、この子。
あそこは特に日当たりが良いから、離れ難かったのかも。


「で、繁々と顔を見てて気が付いたんだが、この猫、シュラに瓜二つじゃないか? 目付きの悪さといい、態度のデカさといい、昨日までの猫姿のシュラとソックリそのままだろう。だから、またシュラが、あの薔薇紅茶を飲んで、猫化してしまったのではないかと思っ――。」
「シュラなら、そこに居ンだろ。オマエの目は節穴か?」
「え……?」


そう言われて、アイオリア様が目を向けた先には、腕を組んで仁王立ちするシュラ様の姿。
しかも、ハーフパンツに上半身は裸のまま、首からタオルを下げただけの半裸な状態で。


「シュラ……、さっきから、ずっとそこに居たか?」
「あぁ、居たな。」
「そう、か……。すまん。」


バツが悪そうにアイオリア様が呟き、目を逸らして俯くと、一瞬、訪れた静寂に、彼の腕の中の猫ちゃんが「ニャーン。」と鳴いた。
それに釣られて、デスマスク様のバスケットの中の仔猫も「ミャーン。」と小さな鳴き声を上げ始める。


「じゃあ、この黒猫は……。」
「タダの野良猫だろ。よっぽどオマエの宮が居心地良かったンだろうぜ。ちょっと見せてみろ。」


言われるまま、腕に抱いていた黒猫を、デスマスク様に差し出すアイオリア様。
だが、受け取ったデスマスク様は、猫ちゃんを隅々まで舐めるように見ると、またアイオリア様に突き返してしまった。


「そりゃ、メスだな。流石、猫科の聖闘士。猫にモテモテなこって。」
「なっ?! お、俺は獅子座だ! 決して猫ではない!」
「良いじゃねぇか。折角だし、オマエが飼えばイイ。アンヌが喜んで遊びに来ンぞ。」
「え、アンヌが俺の宮に……。」
「おい、デスマスク。余計な知恵をつけるな。」


ムッとするシュラ様と、そわそわし出したアイオリア様と、楽しそうにクックッと笑うデスマスク様と。
結局は、いつもの日常に戻ってしまったけれど、可愛い猫ちゃんとの戯れ生活は、この先も変わらず続きそうだ。
そう思うと、何だか嬉しくて、微笑ましい気持ちになって。
アイオリア様の腕から可愛い猫ちゃんを奪うと、ギュッと抱き締めた。
そんな私を、更にムスッとした顔で見下ろしてくるシュラ様の様子に、思わず笑いが込み上げてくる。


「名前は……、『シュラ様』にしましょうか?」
「おい、猫に俺の名前を付けるな。」
「なら、カプちゃん? カプリちゃん? カプリコちゃん?」
「どれも却下だ。」
「面倒だから、シュラでイイんじゃね?」
「ふざけるな。叩っ斬るぞ。」


いつもの日常に戻りはしたけれど、これからは、そこに可愛い猫ちゃん達が加わる事になる。
泣いたり笑ったり怒ったり悲しんだり、今まで以上に忙しく、でも、今まで以上に充実した日々になるだろう事を思えば、私の心にポッカリと空いてしまった寂しさの穴も、綺麗に塞がっていくような気がした。



と暮らす日々
毎日が、にゃんにゃんパニック!



(そう言えば、アンヌ。昨日から俺のキスを避けてばかりいるが、何故だ?)
(そ、そんなの理由は分かってますでしょ?)
(……分からん。)
(シュラ様が、こ、昆虫を食べたからですっ。だから、もう二度とキスはしません!)
(あ、あれは猫になってしまったからだ、仕方ないだろう! アンヌも猫になれば分かる!)
(分かりません! 絶対に分かりません!)



‐end‐





ちょっと魔が差しただけで書き始めた、シュラ様の黒猫化連載でしたが、気付けば全七十五ページとか……。
こんなに黒猫シュラ様への萌えが持続するとは思いませんで、自分でも吃驚です(苦笑)
しかも、連載が終わってしまう事に未練タラタラな自分、名残惜しさがハンパない。
こんなに書いても、まだ書き足りないとは、これぞ黒猫シュラ様の魔性か、魔力かw
もっと黒猫シュラ様と猫リアにゃんこに色々な事をさせたかったのですが、お話はこれにてお終い。
いつかまたSSなどで、チラと書く事もあるかもですけれど。
シュラ様も、いつもの天ボケ・色ボケ・ラテン系なシュラ様に戻っていただき、本編である『闇のリズム星のリズム』の完結を目指していこうと思います。

それでは、ここまでお付き合いくださった皆様、有難う御座いました!

連載開始:2013.02.12
連載終了:2013.11.03



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