シュラ様は普段と変わらず無表情だったが、その仕草は何処となくダルそうだ。
まだ着替えの途中だったのだろう、シャツの前はボタンが留められておらず、その隙間から立派な胸筋と腹筋がチラチラと見えている。
その上、上がり切っていないズボンの縁からは、ボクサーパンツが少しだけ覗いていた。


「何を、そんなにジロジロ見ている、アンヌ?」
「その……、本当に元に戻られてしまったのだな、と……。」
「残念そうだな。猫のままの方が良かったか?」
「そういう訳では……。」


私だって、猫姿のシュラ様よりも、本物の、人の姿のシュラ様の方が良いに決まっている。
ただ、彼等が元の姿に戻るまでには、まだ数時間はあると思い込んでいたから、驚きで頭の回転が追い付かないだけだ。
それに、こんなに早く戻ると分かっていたなら、もっと何度も撫で回しておけば良かったとか、もっといっぱい抱っこしてギュッとしておけば良かったとか、後悔ばかりが湧き上がってくる。


私は恐る恐る手を伸ばして、肌蹴たシャツの隙間、露出していたシュラ様の肌に触れた。
滑らかで張りのある筋肉の感触。
それから、背伸びして手を伸ばし、彼の逆立つ黒髪に指を通す。
見た目からは想像出来ない柔らかさではあれど、その触り心地は、艶々と心地良い猫ちゃんの体毛とは全然違っていた。
その違いを直接、感じ取って、無意識に零れる溜息。


「はぁ……。」
「やはり残念そうではないか。」
「そ、それは……。」


シュラ様が元に戻って嬉しい。
嬉しいけど……、何処か寂しい。
突然の事だったからか、心にポッカリと穴が開いてしまったみたいだ。
この隙間は、どうやったら埋められるのだろう。
あの可愛い猫ちゃん達じゃなきゃ、この寂しさは取り除けない気がする。


「……飼わんぞ。」
「え?」
「猫が飼いたいと言われても、俺は承諾出来ん。」
「ど、どうしてですか?」


確かに、今の一瞬、言われた通りの事を思った。
彼等の代わりと言っては何だけれど、ペットとして猫ちゃんを飼いたいな、と。
でも、シュラ様はそんな私の考えを見透かして、先に牽制をしてきた。
猫は飼わない。
ペットが嫌いなのかしら?
それとも、猫が嫌い?


「猫は嫌いではない。ただ、アンヌ。オマエがどのようにペットを可愛がるのか、俺は今回、身を持って知った。だから、了承は出来ん。」
「そんな……。」
「ペットとはいえ、俺にしたように猫を抱き締め、同じように撫で、頬擦りをし、甲斐甲斐しく面倒をみるのだろう? それを俺が黙って見ていられるとでも? それに、俺が傍に居ない間、いつも俺の事を考えていたアンヌが、だ。ペットなど飼ってしまえば、その時間は全てソイツに取られてしまう。それは……、許し難い。」


つまりは、猫ちゃんに嫉妬してしまう、と?
ペットに嫉妬するとハッキリ言い切ってしまうなんて、本当に我が儘で独占欲の強い人。


「全く、こんな時ばかりラテン系なのですから……。」
「何とでも言え。愛する女の全てを独占したいと思うのは、男として当然だ。」


キッパリと言い放ち、私の身体を引き寄せる。
ギュッと抱き締められて、頬に触れるシュラ様の肌の感触、力強い心音、強い腕の力。
たった一日だけだったのに、とても懐かしい気がした。
黒猫姿のシュラ様を抱き締めるのも、とても幸せだと感じたけれど、やはりこうでなくては駄目なのだわ。
シュラ様が私を抱き締めて、私がシュラ様に抱き締められる。
これが正しい関係。
私は温かな彼の体温に包まれて、ホッと安堵と喜びの溜息を吐いた。





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