可愛い……。
何ですか、この可愛い猫ちゃん箱は。
ちんまりしていて、ポテッとしていて、けしからん可愛さです。
うん、けしからん、本当にけしからんです。
などと、キッチンの床に落ち着いてしまった猫ちゃん二匹を眺めていた私だったのだが……。


「ミャッ?!」
「ミミッ?!」


それは突然に起こった。
目を細めて、すっかり寛ぎモードに入っていた猫ちゃんが、急にパチリと目を見開いたのだ。
そのまま隠していた手足を出して立ち上がると、グッと伸びをして。
その伸びの反動を使って、二匹同時に一気に走り出した。
しかも、目にも止まらぬ物凄い勢いで。


えぇっ、何ですか?!
ね、猫運動会の開始ですか?!


「し、シュラ様っ!? アイオリア様っ!?」


慌てて追い駆けてはみるものの、猫ちゃん達の素早さと黄金聖闘士のスピードには敵わなくて、みるみる内に差が付いてしまう。
ズドドドドと走り抜ける猫ちゃんと、それをボテボテと追い駆ける私。
何だかアニメのワンシーンのようだが、正直、そんな生易しいものではない。


「あぁ? 煩ぇなぁ、なンだぁ?」
「で、デスマスク様っ! シュラ様達が突然、暴走をっ!」
「ミミャー!」
「ミーー!」


そうこう言っている間に、暴走猫ちゃん達はデスマスク様の寝転がるソファーの前を、疾風の如き速さで通過。
そのまま廊下へと突進し、少しだけドアの開いていた寝室の中へと飛び込んでいった。


――バターンッ!!


「あぁん? なンだ、ありゃ?」
「何だって良いですよ、そんなの! それより、ドアが閉まっちゃったみたいですけど、どうして?!」
「アレだろ。アフロディーテの聖衣にやったみてぇに、蹴りでも入れたンだろ、シュラが。」


こういう時だけ器用になるシュラ様の、例の黒猫後ろ回し蹴りですか!
猫でありながら、これだけ多彩な技を持っているなんて!
流石はシュラ様です!


「アンヌ。ソコ、感心するトコじゃねぇから……。」
「あ、はい、すみません……。」
「中、様子見るぞ。」


デスマスク様が閉じられた寝室のドアノブに手を掛ける。
器用なシュラ様といえども、流石に猫の姿のままでは、鍵までは掛けられない。
力を入れると、容易くガチャリとノブが音を立てた。


「……だ、駄目だ! 開けるなっ!」


ん?
今のって……。


「声、だな。」
「声、ですよねぇ。」


しかも、焦った感じのあの声は、シュラ様ではなかった。
だとすると、アイオリア様?


「つー事は、人の姿に戻ったってか?」
「ええっ?! でも、二十四時間経つまでには、あと二時間以上はありますよ?」
「薬の効き目が短かったンだろうぜ。もしくは、何らかのきっかけでもあったか……。」


きっかけ……。
猫箱……、不貞腐れシュラ様……、猫ダンス……、猫催促……、覗き見アイオリア様……、はふはふ食べるオヤツ……、オヤツっ?!


もしかして、カボチャのケーキ?!


「ほぅ、アンヌ。俺の許可も取らずに、カボチャのケーキなンざ食わせたのか、オマエ。」
「いえ、その、し、シュラ様達が、どうしてもと仰いましてですね……。」
「まぁイイ。言い訳は後で聞く。」


とても、とっても怖〜い顔で私の顔を睨み付けると、デスマスク様はフンと鼻を鳴らして、ドアの方へと向き直った。
そのまま少し強めにドアを叩き、中に居るであろう、人の姿に戻ったと思われるシュラ様とアイオリア様に声を掛ける。


「オイ、入るぞ!」
「まだ駄目だっ! ちょっと待ってくれ!」


またアイオリア様の声だ。
でも、どうして入ってはいけないのでしょう?
人の姿に戻ったのなら、もう隠れる必要なんてないと思うけれど。


「アホ。猫から人の姿に戻ったって事は、マッパってこったろうが。今は着替え中なンだろうぜ。」
「あ、そうか。そうですね……。」


シュラ様はまだしも(いえ、シュラ様であっても困るけれど)、アイオリア様の全裸姿を拝んでしまう訳にはいかない。
それは流石に色々と厳しい。
という訳で、デスマスク様と私は、寝室のドアが自主的に内側から開くのを、ただ黙って待っていた。





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