あああ!
でもでも、このまま猫ちゃんと、まったり夕方まで過ごすとか、絶対に無理です!
このままじゃ、私、駄目人間になっちゃう!


「デスマスク様。」
「あ? なンだ、アンヌ?」
「ちょっとシュラ様達の事、見ていてください。」


私は抱っこしていたシュラ様を、デスマスク様の寝そべるソファーの空いている隙間に降ろした。
アイオリア様は、彼のお腹の上でグッスリと眠っている。
猫ちゃんに取り囲まれて、心持ち嬉しそうなデスマスク様に全てを託し、私は彼等に背を向けた。


「なンか、すンのか?」
「このままゴロゴロしてはいられませんので。昨日、シュラ様がスクエアカットしたカボチャ。あれを使って、何か作ってきます。」
「生真面目なヤツだな。タマにはノンビリしたってイイのによ。」


それが私を馬車馬のように働かせていた人の台詞ですか。
あれをやれ、これをやれと、彼に扱き使われた六年間。
お陰で、私は仕事せずには落ち着いていられない性質になってしまったのだから。


キッチンに入ると、ボウルに山積みになったカボチャを取り出す。
さて、何を作ろうかしら。
カボチャコロッケ?
カボチャの冷製スープ?
どれもピンとこない。


「ミャッ。」
「わ、シュラ様?」


冷蔵庫の扉を開けようと足を前に進めた途端、足首が柔らかな何かにポスリと当たった感触がして、視線を落とす。
そこには真っ黒なホワホワの塊。
つまりは黒猫姿のシュラ様が居て、私を見上げて右前足を上げていた。
もう、デスマスク様ったら!
ちゃんと見ていてくださいって、頼んだのに!


「シュラ様、キッチンは駄目です。動物の毛が、お料理に入ってしまったら大変な事になるのですから。」
「ミャッ?」
「もう、またそんなとぼけた顔して誤魔化して。」
「ミャミャッ。」


私の言葉をちゃんと理解しているクセに、得意のとぼけ顔で知らん振り。
ご機嫌取りなのか、自分がそうしたいだけなのか、足首にスリスリと顔を擦り付けてくる。
とっても邪魔なのだけれども、でも、その可愛い仕草に強くは怒れない私。
何て優柔不断なのだろう、つい猫ちゃんの哀願には許してしまう。


「もう、シュラ様ったら……。お料理の間は、かなり動き回りますから、邪魔にならないようにしてくださいね。」
「ミャン!」


分かったと言う様に、前足をシュッと上げてみせるシュラ様。
次いで、キッチンの端に置いてあった、小さなスツールの上に飛び乗った。
それは戸棚の高い位置に置いてあるものを取る時にしか使わない椅子だから、今はシュラ様が乗っていても問題はない。
私がキッチンにいる間は、ずっとそこで見物している気なのだろう。


「それじゃあ……、ケーキでも作りましょうか? カボチャのパウンドケーキ。」
「ミャン。」
「本当にシュラ様は甘い物が大好きですね。」
「ミャーン。」


嬉しそうに鳴き声を上げたシュラ様の、小さく狭い額にキスを一つ落とした後、私はケーキ作りのための準備にかかった。
シュラ様のジッと見つめる視線の中、お菓子作りをするのは、何だかちょっとだけ恥ずかしいと言うか、こそばゆい感じがしたけれど。
元に戻った後の彼に、美味しく食べてもらいたい。
そう思いながら、カボチャの下ごしらえに取り掛かった。





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