「ミ、ミィィ……。」
「あ、アイオリア様が復活してきたみたいですよ。」


アイオロス様による一方的かつ自己中心的な攻撃で、すっかり伸びて目を回していたアイオリア様だったけれど、猫になっても流石は黄金聖闘士。
回復力は並大抵ではない。
あっという間に元気を取り戻し、腕の中から首筋辺りにスリスリと擦り寄ってくる。
擽ったいけど、気持ちが良い、このもふもふ感……。


「どうしてアンヌには、あんなに懐いているのに、俺は駄目なんだ、アイオリア? ううっ。」
「弟に無碍にされたからといって、泣く奴があるか。それでも教皇補佐か? これだから英雄と持てはやされる男は、独り善がりでいかん。」
「アンタの場合は、乱暴に扱い過ぎなンだよ。適度な力加減ってモンを学習しろっての。」


サガ様とデスマスク様から相次ぐ罵倒の言葉を投げ掛けられ、益々、落ち込んでいくアイオロス様の姿は、見ているだけで切ない。
今、項垂れた彼の大きな背中の上に、 『独り善がり』、『乱暴』と書かれた巨大な岩が積み上がっているように私の目には見えているもの。
それに加えて、カミュ様からの冷ややかな視線。
あれじゃ、クールを越えて急速冷凍の域だわ。


「アイオロス様。さ、どうぞ。」
「ミィ?」
「……え?」


その姿が余りにも可哀想に思えてきて、私はアイオリア様を抱っこしたまま、彼の真横へと近付いた。
そして、戸惑う視線で私を見上げるアイオロス様の膝の上に、そっと猫ちゃんを降ろした。


「そっとですよ、そっと。力を入れ過ぎては駄目です。」
「そっと……。」
「ゆっくりと、優しく撫でて上げるんです。そう、ゆっくり……。」
「こう、か?」
「ミィィ。」


大きく無骨な手が滑る、猫ちゃんの小さな頭。
ゆっくり優しく、言われた通りに実践すると、直ぐにアイオリア様は目を細め、気持ち良さげな鳴き声を上げた。


「ミ、ミィィ。」
「かっ、可愛いなぁ、アイオリア!」
「いかん、アイオロス! 力を入れては駄目なのだ!」


猫アイオリア様の愛らしい仕草に、またもワシワシと力を込めて撫でようとするアイオロス様を、カミュ様が慌てて止めた。
そこで元に戻ってしまっては、結局は、折角の努力の意味がなくなってしまう。
カミュ様に窘められて、思い止まったアイオロス様は、再び、ゆっくりと手を滑らせ始めた。


すると、どうだろう。
それまで、アイオロス様に対しては恐怖心しか持っていなかったアイオリア様が、今は嬉しそうに、その大きな手の甲に頭を擦り寄せているではないか。
これには、アイオロス様も大いに感動したらしく、幸せそうに目を潤ませている。


「アイオリア、やっと兄ちゃんに懐いて……、ううっ。」
「また泣いてンのかよ、アンタ。涙腺、ユル過ぎじゃねぇの?」
「お前には分からんのだ、俺達の兄弟愛は……。」
「兄弟愛ねぇ。」


呆れの視線を送るデスマスク様と、ホッと息を吐くカミュ様。
そして、じゃれ合う二人(一人と一匹)が羨ましくなったのか、腕に抱いたシュラ様を執拗に撫で回すサガ様と。
黄金聖闘士様が三人も揃っていながらの、この和やかな雰囲気に、私も思わずホッコリしそうになる。


……って、違う違う!
今は、猫ちゃんと戯れてホッコリしている場合じゃないのよ。
大事な事を忘れていますから、サガ様。
聞いています、サガ様?!





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