「安心してください、ミカ姐さん。俺は女の子を連れ込む気もないし、大体、意中の相手もいませんから。」
「そう、そうよね。盟に限って、そんな事はしないわよね。」


例え師匠が『コレ』でも、反面教師というものか、盟はとても良い子に育った。
元々の出自の良さもあるのかもしれない。
でも、この何処までも横暴なデスの教えを受け、かつ、そんな彼を尊敬して髪を染め変え、見た目まで真似をしている割には、中身までは似る事もなく、まだ少年でありながらもしっかり者の出来た子だと思う。


「何、デス? 変な目で見て。」
「…………。」


ふと彼の方を見ると、何か言いたげに目を細めて私と盟を眺め見ている。
正直、こういう時は大抵、ロクな事を口走らない。
だから、話を振りたくはないのだけれど、聞かなきゃ聞かないで不機嫌になる。
何処までも面倒臭い人なのだ。


「オマエさ、ミカ。どの口が、ンな母親みてぇな事、言えンだよ。」
「え?」
「俺等、十六の頃には、もう散々イイ事し捲ってたじゃねぇか。毎晩毎晩、こっそりと人目を忍んで神殿から巨蟹宮まで降りて来てたのは、ドコのどいつだ? つか、夜明けまで飽きずに俺に跨り、何度も何度も――。」
「わーわーわー!!」


盟の前で何て事を言い出すのよ、この馬鹿デス、馬鹿蟹、馬鹿イタリア人!
そ、そりゃあ言っている事は間違ってはいないけど、そういうのは健全な青少年の前で言うべき事じゃないでしょうに!
しかも、自分の弟子の前で!


「アホか。俺等がそうだったってのに、盟にだけ我慢を強いるなンて、おかしいだろ? 明日の命の知れねぇ聖闘士だからな。経験は積める内に、ヤレるだけ沢山積んどいた方がイイに決まってる。」
「だからって、ソッチの経験はまだ早いわよ……。」
「いやいやいや。もう良いっスよ、師匠もミカ姐さんも。何だかんだ言ったところで、俺自身にその気が全くないんスから、言い合いしたって意味ないでしょ。」
「ったく、このクソ真面目が。」


確かに、このままだと何処までも不毛な言い争いが延々と続きかねない。
それに、例えデスが悪魔の誘惑を囁いたとしても、盟はそれに乗るような子ではないし、そういう事にかまける事はしないと信じてもいる。
私達は私達、盟は盟。
彼と同じ年齢だった頃のデスと私がそうであったからといって、盟もそうしたいと望んでいるとは限らないもの。
彼は彼なりの考えやペースがある。


だから、不機嫌に唇を引き結ぶデスの言葉は軽く無視し、盟に留守を守るようシッカリと念押しすると、用意されていたクルーザーに、さっさと乗り込んだ。
まだ言い足りないのか、チッと小さく舌を鳴らし、デスが渋々、その後に続く。


海岸を離れ、ゆっくりと動き出す船。
クルーザーの上、臨時で雇った船の操縦士以外には、デスと私の二人だけ。
ギリシャ・聖域に到着するまでの間は、狭い船内を二人きりで過ごす。
それは数年振りの二人旅だった。





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