ゆったりとした波に揺られて進む船旅は、予想外に心地良かった。
デスが用意していた夕食は、作り置きでありながら、頬が落ちそうになる程の美味だったし。
波音を聞きながら見上げる夜空は、街の灯りに遮られる事のない澄んだ星の輝きに溢れていたし。
揺れ動く水面に映る満月を眺めながら、ボーッとするのも至福の時間だった。


未だ不機嫌さを引き摺っているのか、いつになく口数少なに押し黙っているデスの横に寄り添って、それでも居心地悪いと少しも感じなかったのは、どうしてだろうか?
暫く考えた結果、結局、自分はデスを愛しているからだと改めて気付いた。
好きだからこそ、不機嫌な彼と逃げ場のない空間に押し込められても、不快には感じないのだ。


それどころか、こうして二人きりでいる事が嬉しいとさえ思っている私。
やはり、いつも心の何処かで盟を気に掛けている自分がいて、だからこそ、シチリアのあの家の中では素直に甘えられずに、ついつい喧嘩ばかりになってしまうのだろう。
素直になるのも、甘えるのも気恥ずかしかったのは、必ず何処かに盟の視線があったからだ。
二人きりであれば、それを意識する事もなくなる。
今なら、自分の心の赴くままに、デスに寄り添って良いんだわ。


そうして今、私はデスに全身を預けていた。
支える力は強く、触れる手は温かく、何があっても動じずに、デスは私を包み込んでくれる。
そうだ。
私は、いつもこうしてデスに守られてきた。
恋に落ちたあの日から、ずっと。


「ねぇ。どうして喋らないの?」
「別に……。今更、話さなきゃなンねぇ事も特にねぇだろ。」
「そう、ね。」


大抵の事は話さなくても伝わる。
今の私達には、言葉はあまり必要ないのかもしれない。
ただ同じ事を思い、同じ事を感じて、同じ時間を共有する。
それだけで十分、心が繋がっている気がするのだ。


「そんなに嫌?」
「あ、何がだ?」
「私を聖域に連れて行く事よ。何だか随分と憂鬱そうだから。」
「俺が憂鬱になンか、なるかよ。」


嘘吐き。
本当は嫌で嫌でたまらないクセに。
話さなくても伝わる、喋らなくても気持ちは感じ取れる。
だって、ほら。
都合が悪くなると、いつもセックスで誤魔化そうとするでしょ。
今もそう、いつもと同じ。
素早く落ちてきた唇が、強引に私の唇から言葉を奪ったもの。


「ん……。で、デス、駄目……。」
「折角、二人っきりだってのに、シないってか、ミカ? 無理だろ、どう考えても。」
「ち、違っ……。操縦士さんに、聞こえちゃう、から……。」
「気にすンな、ミカ。雇われ操縦士なんざ、こういう事は慣れてンだよ。」


そこから始まる情熱的な愛の行為は、声を押し殺そうとした分、内側に籠もった熱が身悶えする程の壮絶な快感となって私の全身を焼いた。
いつになく燃え上がって、しっかりと掻き抱いたデスの逞しい身体。
抱き締めてしがみ付く大きな背中。
震えの止まらない手足と、身体の奥に打ち込まれるデスの欲は深く濃厚で。
何度となく繰り返してきた行為でありながら、何度でも喜びに打ち震えるのは、彼への愛が終わりを知らないからなのだろうと、快感に薄れる意識の中、何となく思っていた。



波に揺られてゆらり、彼に抱かれて目を閉じる



何処までも続く星空の下、終わりのない大海の波に揺られて二人。
夢と情熱の狭間でゆらゆら、静かな夜に熱い息を零す。
抱き合う彼の身体から感じる温もりに目を閉じ、私は流されるまま閨の縁に沈んだ。



‐end‐





やっと聖域に向け出発!
と思いきや、まだグズグズしてますよ、この人達(苦笑)
しかも、ワザと船を使って行く辺り、デスさんは余程、先延ばしにしたいんだと思われます。
もしくはクルーザーの狭い船内での船上えちを楽しみたかったのかも、流石はERO蟹w
そんな訳で、聖域に辿り着くのは、いつになるのやら……。

2012.07.08



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