「……ンだよ、ミカ。その顔は。」
「いや、だってほら。デスがあまりにも変なこと言うから、吃驚しちゃって。」
「ヘン? 別に変な事なンか、言ってねぇだろ。」
「そう言われれば、そうなんだけどね。」


『愛してる』なんて、今更過ぎる言葉。
よくよく考えれば、私からデスに伝えた事もなければ、デスから私に伝えられた事もない。
大体、いつも喧嘩ばかりしている割には、二人共に謝罪の言葉すら掛け合う事もなく。
いつの間にか口論していた事すら忘れて、いつものデスと私に戻っている、そんな関係だもの。


「ごめんなさい。」すらロクに言えない私達が、「愛してる。」だなんて、そんな歯が痛くなるような甘ったるい台詞、面と向かって言えるだろうか。
言えるワケがない。
言おうとすら思わないだろうし、思った事もない。


それでも、喧嘩の後の罪悪感が拭い切れずに、「好きよ。」と思わず口走ってしまう事があるのも事実。
だけど、あれは「愛してる。」と伝えるのとはワケが違う。
私は単に、本気の想いを籠めた「好きよ。」の囁きを聞いたデスが、照れ隠しのために澄まし顔をする、そんな彼を見たいだけ。
「ンな事、分かってンだよ。」とか、「バーカ。」とか呆れ返った顔して答えるデスが、本心では嬉しがってるのを私はちゃんと知っていて。
そして、そんな風に照れ隠しする彼がどこか可愛らしくも思えて、ひっそりと好きだったりもするから。


でも、やっぱり言えない、「愛してる。」なんて言葉。
照れ臭くて、恥ずかしくて。
何より今更「愛してる。」と伝え合わなくちゃ分かり合えない間柄でもない。
言わなくても良いのだもの、心がちゃんと繋がっているから。
言葉にして確認する必要もないくらい、私の心はデスだけのものだ。
そして、きっとそれは彼も同じ。


「変だってンなら、俺達の方がよっぽど変じゃねぇの? 『アイシテル』とも言った事がねぇカップルって、どうかと思うぜ。もう六年も付き合ってンのに。」
「どうって言われても……。」
「あ、いや、まさかとは思うが、付き合ってると思ってンのは、俺だけってコトはねぇよな?」
「当たり前でしょ。付き合ってもいない人のために、わざわざ聖域からこの島に移住してくると思う? それに、もし付き合ってないとしたら、私はデスの何? エッチもサービスの内に含まれる、とっても便利な家政婦さんか何か?」


今日の私はどうかしているわ。
自分の意思とは裏腹に、思ってもいない嫌味な言葉が口をついて止まらない。
いつもであれば、デスの方が言いそうな相手を追い込む棘を含んだ言葉。
決して本気ではない、でも、ちょっと痛さを伴う言葉。


きっとデスの様子がおかしいからだ。
それを不安に感じ取ってしまった私の心が、無意識のうちに自己防衛をしようとしている。
喧嘩になっても構わない覚悟で、わざと癇に障る言葉を並べて、相手が怒り出すのを待っている。
言い合いにさえなれば、いつものように罵り合いながらもじゃれ合う、そんな普段の二人のペースに戻れるから。


でも、今日のデスは、やっぱり何処かがおかしいままで。
私の思惑に乗ってくれるつもりはサラサラないらしかった。





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