聖域でデスと出逢った時、私はまだ十六歳だった。
はっきり言って、それは初恋だったと言っても良い。
恋愛については何も知らない素人同然で、駆け引きも何もない、想いを伝える上手な言葉も掛けられない。
ただ傍にいて、楽しかったり嬉しかったり、苦しかったり切なかったり、それだけで十分で、それだけで満たされていた。


気が付けば心も身体もデスのものとなり、絶えず傍にいた私は、愛を言葉にして伝え合う必要もないくらいに幸せで、そして、彼の心を疑う事すら知らなかった。
疑う理由など、何処にも見つけられなかったから。
あの憎らしい言葉遣いと、人を苛立たせる俺様な態度の裏側には、いつも私への想いが溢れていたし、私にはちゃんとそれが伝わっていた。


デスが弟子の盟と共に、このシチリア島に移り住む事になったのは、それから直ぐの事。
勿論、私も迷う事なく一緒にココへと移住し、デスもそれを望んだ。
それからの月日、街から離れたこの隔離された空間で、長い時間を共に過ごしているという事。
それは「愛している。」と言葉にする以上に深い、時間と空間の共有。


例え、デスが私の知らないところで他の誰かを抱いていたとしても、それが本気の愛ではないと私は知っているから。
ホンの一時の心の迷い・気紛れなら、まぁ、怒りはするけれども、心の中では許しているの。
彼の居場所はこの家だけ、私と共に過ごすこの場所だけ。
それは揺るがない事実としてずっとココにあり、だからこそ、疑いなどする必要など、何処にもなかった。


「どうして今更?」
「あ?」
「今更、『愛してる』って私に言われて、デスは満足なの? 嬉しいの?」
「そうじゃねぇ、ただ……。」


フイッと視線を逸らして俯くデスの仕草が、何処となく寂しそうな悲しそうな、そんな感情を隠しているようにも見えた。
やはり何かあったのだろうか?
先日、聖域から戻って来てからというもの、デスの態度がおかしい。
それは彼の弟子である盟も、そう言っていた。


「オマエが俺の事をどれだけ想ってンのか、確認したかっただけだ。」
「確認しなくたって、知ってるクセに。」
「あぁ、知ってる。でもよ、俺とオマエは長年の付き合いとはいえ、それでも赤の他人だ。俺の知らねぇ事だって、あるかもしれねぇだろ?」
「ないわよ、そんなもの。ねぇ、デス。何を疑っているの?」


私から返ってくる言葉に、デスは満足出来ないのだろう。
いつものクセでガシガシと銀の髪を掻き毟り、そのせいで、折角、見事に逆立てた髪型がしんなりと崩れていく。
きっと多分、私が「愛してる。」と言わない限り、ずっとこの無意味な問答が続くのだ。
私は溜息を小さく吐くと、デスの手を取り、ダイニングを後にした。


「ミカ……?」
「良いから、ほら。ココ、座って。デスの大好きな膝枕して上げる。」


半ば強引にデスをソファーに座らせ、自分もその横に寄り添うように腰掛ける。
慣れた仕草で身体を倒して、私の膝にズッシリとした頭を預けたデス。
遠慮なんてない、重いだろうとの配慮の言葉もなく、自分の体重を全部、私の膝に預けてくる。
それはデスが私に心を許している証であり、だからこそ、重いと文句を言いつつも、実は嬉しいひと時だったりするの。





- 3/5 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -