「盟、お水飲みたいの。取って来てくれない?」
「ミカ姐さん、俺は便利な雑用係りじゃないッスよ。キッチンまで近いんスから、自分で行けば良いでしょ?」
「動きたくても動けないのよ、誰かさんのお陰で。」
「あぁ、はいはい。激しかったんスね、分かります。今朝の修練も随分とハッスルしてましたから。」


あからさまに呆れた顔をして、銀に染めた髪を掻き毟る盟。
「仕方ないっスね。」と言いつつも、冷蔵庫から良く冷えたミネラルウォーターのペットボトルを持って来てくれる。
自分より何歳も年下のこの少年が、私よりよっぽどしっかりしているのは、イイ加減でやりたい放題な師匠と、フワフワと頼りない私と共に暮らしてきたせいだろう事は否めない。
こんな喧嘩ばかりしてるカップルの間を取り持つのは大変だろう、苦労を掛けてるわよねと、私は心の中で小さく謝った。


「……ミカ姐さん。」
「ん〜?」
「師匠、何かあったんスかね?」
「知らないわ。でも、任務で何か大きなミスでもしたのかもしれないし。暴君みたいなアイツだって、たまにはヘコむ事もあるでしょ。好きにさせて上げましょう。」


理由を聞いたところで、彼の事だ。
どうせ答えてはくれない。
分かっているから、こういう時は、放っておくのが一番だと、私は知っている。
それを聞いて、盟は諦め半分で肩を竦めた。


「オイ、誰が暴君だって? ったく、言いたい放題ぬかしやがって。」
「どわっ?!」
「ひゃっ?! で、デスッ? いつから、そこに?」


突如、私達の背後から聞こえた声。
振り向けば、そこには不機嫌な顔をした彼の姿。
相当にご機嫌斜めである、その証拠に、目が笑っていない。
いつものニヤリとした笑みも浮んでいない。


「ちょっ、師匠。なんスか、その格好?」
「わっ、びしょ濡れじゃないの?」


ズカズカと部屋の中へ入ってきた彼は、脱いだシャツを肩へ引っ掛け、残りは頭のてっぺんから足の先までズブ濡れだった。
自慢の逆立った銀髪も、今は濡れてしんなりと垂れ下がり、それが妙に彼の色気を引き立てている。
ポタポタと雫を部屋中に垂らして、平然と私達の前を横切って行く彼は、質問に答える素振りさえ見せずに、奥の部屋へと足を進めた。


「あー、盟。」
「なんスか?」
「今日、これからの予定は?」
「俺は今から街へ買出しに行きますけど、それが何か?」


だから何だと言うのか?
首を傾げる盟と、そんなやり取りを黙って見ている私の方を振り返った彼は、やっぱり酷く不機嫌な表情。


「なら、今直ぐに行け。で、二時間くらい帰ってくンな。」
「はぁ? なんスか、それ?」
「イイから、早く行けっての! もっと絞られてぇのか? ぁあ?!」


だから、その俺様でLLな態度が暴君だって言っているのよ。
呆れる私を余所に、余程、先程の修練がキツかったのか、あんな修練は懲り懲りだと言わんばかりに慌てて出て行く盟。
そして、私は溜息を吐くばかり。





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