「ミカ……。」


暫く後。
バスタオル一枚だけ腰に巻いて戻ってきた彼は、多分、シャワーを浴びて来たのだろう。
ソファーに横になったままの私の手首を掴んだ手が、ふんわりと暖かかった。


「何よ?」
「膝枕。」


腕を引っ張られて無理矢理に身体を起こされた事に不機嫌を隠せない私を軽く無視して、ソファーの空いたスペースにドッカリと腰を下ろした彼は、そのままゴロリと横になり、私の膝に頭を預ける。
ズッシリとした彼の頭を受け止め、未だ続く鈍い痛みに身体は悲鳴を上げ掛けたが、私は拒否も抵抗もしなかった。


彼が甘えてくる事は、滅多にない。
盟に弱味は見せられないから、わざわざ追い払った事くらい、私にも分かっている。


「重い……。」
「そりゃそうだ。俺の頭ン中には、脳味噌がギッシリ詰まってるからな。」
「脳が大きいのと、頭の良さとは比例しないわよ。」
「皺の数だって言いてぇのか? ンなモン、大差ねぇよ。」


仲間であれ親友であれ、弱い自分を見せたくはない、それが彼だ。
いつも勝気で強がって、そんな彼が僅かでも張り詰めた心の糸を緩められるのなら、私の存在意義はそれで十分。
甘えたい時は、甘えてくれれば良い、好きなだけ。


「何かあったの? って、聞いても答えてくれないんでしょうけど。」
「分かってンなら聞くな。面倒臭ぇ。」


多分、任務でのミスではない。
彼は失敗して落ち込むような、そんな性格じゃないもの。
もっと全く別の事だろう、彼の心を落ち込ませているのは。


私は彼の形の良い耳を見下ろしながら、ゆっくりと銀の髪を撫でた。
傍目には硬そうに見える彼の髪も、こうして触ってみると、実は意外に柔らかで滑らかな事、私だけが知っている。
窓から入り込む午前の風が心地良く、耳に遠く波の音が優しい。
私の膝の上でジッと押し黙っている彼が愛おしくて、重くダルい身体の事など忘れそうになる。


「じゃあ、これは答えてくれる? 何で、あんなにズブ濡れだったの?」
「濡れて当たり前だろ。海、入ったからな。」
「え? ズボン履いたままで?」
「誰も来ねぇとはいえ、パンツ一丁ってのはマズいだろ。」


いや、まぁ、そうだけど。
海の中に潜って、頭でも冷やしたかったのかしら?
ただ単に泳ぎたかっただけ?
理由を聞いても、また答えてくれないに違いない。
きっと答えは、さっきの理由に繋がっているんだろうから。


「……ミカ。」
「ん〜?」


彼の行動は素早かった。
スッと顔の向きを変えたかと思うと、次の瞬間にはグイッと頭を引っ張られた。


「んっ?!」


彼に覆い被さるように交わしたキスは、昨夜の濃厚な口付けとは、また違った趣き。
そして、重なり合うだけの唇から伝わる彼の心は、ただ安らぎを求めているのだと知る。


ねぇ、デス。
ココに居るだけで貴方の力になれるのなら、ずっとずっと傍にいるよ。



遠く波音に抱かれて、交わしたキスはどこまでも優しい



「さってと……。盟が帰って来るまで、あと一時間半はあるしな。」
「ちょっ、ちょっとぉ?! 何なのよ、この体勢は?!」


唇が離れた途端、巧みに変えられるポジション。
ええっと、何を圧し掛かってくれちゃってるんですか、デスマスクさん?


「当ったり前だろ。キスの次はイイ事するって決まってンじゃねぇか。」


折角、良い雰囲気だったのに、結局、こうなるの?!
身体痛いんですけど、重いんですけど、誰のせいだと思っているのよ!



‐end‐





デスさんとシチリアでのイチャイチャ話を妄想していたら、以前に書かせて頂いたリク夢主さんの勝気さがしっくりくるなぁと思って、こうなりました。
お互い、言い合い・罵り合いをしても、それ自体が愛情表現の一部みたいになっているカップルが良いなと。
こちらのデスさんとヒロインさんは、喧嘩してもお互い謝らないのに、いつの間にか仲直り出来ているという、ラブラブなだけじゃない、どこかメリハリの利いた組み合わせなんですよね。
これまで、デスさんのお相手は従順系や天然系が多かったのですが、最近、掛け合いの上手い、ちょっと勝気なヒロインが、デスさんのお相手には似合うのではないかと思ったりしてます。
ちなみに、デスさんが落ち込んでる理由は、お好きに妄想してください。

2009.07.26



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