petit four的こだわり卵



全く、なンで俺がパシりみてぇな事、させられてンだか……。


休日の午前中。
いつもならば、まったりノンビリ過ごしているところが、今朝は早々と起き出して、ロドリオ村へと赴かなきゃなンねぇ用事が一つ。
しかも、籠いっぱいの卵の買い出しまでさせられるという面倒極まりねぇ用事。
村からの往復どころか、自宮の遙か上、山羊の宮まで運ばなきゃなンねぇとは、全く持って意味が分からん。
シュラが任務で留守、でもって、飛鳥一人じゃロドリオ村までの往復は無理、十二宮の上り下りも無理。
だからってなぁ、俺に行かせる事ねぇだろが。
一日ぐれぇは卵がない生活でも無問題だっての。
つか、卵くれぇなら幾らでも聖域内の市場で買えるだろ。


「オラよ。全部で三十個。コレでイイか?」
「ありがとう、デスさん。シュラが無理に頼んだみたいで、ごめんね。」
「ホントだぜ。ったく、なンでロドリオ村の、しかも、あンな外れにある養鶏場まで、お遣いに行かされにゃならねぇンだよ……。」


抑え切れねぇ文句を少しばかり零したら、飛鳥は眉を下げて「ごめんねぇ。」と申し訳なさそうに身を縮めた。
別に恫喝する気もなけりゃ、人の女を泣かせる気もないンだが、このまま放っておいたら、シュラが戻ってきた後に、ある事ない事を告げ口されそうだ。
慌てて飛鳥の頭をグシャッと撫でる。
文句垂れるのは俺のクセみてぇなモンだから、気に病む事はねぇよと言って。


「でも、シュラが我が儘さえ言わなければ、デスさんの手を煩わせる事もなかったのに。」
「ん、シュラ?」
「私は西の市で買える卵で十分だと思っているんですよ。でも、シュラがどうしても譲らないから……。」
「オイ。そりゃ、どういう事だ?」


聞けば、シュラの野郎の無駄な拘りらしい。
聖域内の市場で売られている卵も、それなりに鮮度は高く、飛鳥は十分に満足して菓子作りに使っている。
だが、ただ一つ、毎週必ず作る蒸しプリンだけは、ロドリオ村の特定の養鶏場で生産された卵でなければ駄目だと、シュラが譲らないらしい。


「アイツ……。飛鳥のために卵を買いに行ってくれとか何とか抜かして、結局は自分のためだったンじゃねぇか。」
「プリンだけは絶対に譲らないの。他のスイーツだと何も言わないのに……。」


呆れの溜息を吐きながら、卵の籠をテーブルに置いた。
力任せに叩き置きたいのは山々だったが、折角、買ってきた卵が割れちまうのは癪だ。
だが、そっと静かに籠を下ろす自分の姿が何処か滑稽に思えて、更なる溜息が零れ出る。


「シュラ、昔からプリン好きだったの?」
「あー、言われてみれば、そうかもな。良く食ってたわ、どっからか買ってきて。」


今じゃ主流のトロトロなクリームみてぇなプリンは、絶対に許さない。
昔ながらの固めの蒸しプリン。
そこに、香ばしいカラメルソースを、たっぷりと溢れるくらいに掛けて食べる。


「プリン、直ぐに出来るから、折角だし、少し持って帰って。お遣いのお礼。」
「お、悪ぃな。んじゃ、少しもらってくわ。」


出されたカフェオレを啜りながら、暫し待つ。
程なくして出されたシンプルなプリンは、真っ白な皿に黄身色の表面が映え、窓から差し込む午前の光に艶々と輝いていた。
そこに、回し掛けるカラメルソースの苦く芳醇な香りが、心地良く鼻孔を擽る。
余計な飾りのないシンプルな菓子だからこそ際立つ、素材の旨味と、作り手の技術。
飛鳥は確かに一流のパティシエだった。
このプリンを一口含んで、いや、含む前から分かっている。
あンま認めたくねぇンだけどよ。


「あ〜……。」
「どうかしました、デスさん?」
「いや、シュラの拘りも分かるわ。この卵、凄ぇ美味ぇ。蒸しプリンには、コイツが一番合ってる。」
「流石、デスさんですねぇ。味覚は黄金イチ。」
「アホ。あンなクソみてぇな舌してるヤツ等と比べンな。」


比べンなら、そうだな。
アテナの嬢ちゃん自慢のラグジュアリーホテル、グラードヒルズ・アテネの料理長とでも比べるぐらいじゃねぇとな。
俺のレベルには、到底、見合わねぇだろうぜ。



お菓子も恋愛もシンプルが一番



(つか、ンなに卵ばっか摂取してたら、コレステロール値が上がり過ぎるっての。)
(それ、シュラに言ってやって、デスさん。)
(俺の言う事なんざ聞かねぇだろ、アイツ。)



‐end‐





珍しく蟹さまと夢主さんが二人きりでまったりなお話。
というか、山羊さまに良いように使い走りさせられている蟹さまって……(汗)

2016.03.23



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