petit four的バレンタイン



「これはミルク。これはモカ。こっちが抹茶ね。」


飛鳥が差し出したトレーには、三つのカクテルグラス。
それぞれのグラスには、コロリと丸い三種類のトリュフチョコレートがピラミッド型に盛られていた。
伸ばした手は三つのグラスの上を数度、往復し、悩んだ挙げ句に、右端のチョコを一粒、手に取った。


「ん……、美味い。」
「本当?」
「嘘など吐くか。チョコレートの甘さと抹茶の苦味が絶妙だ。」


口の中で滑らかに溶けていく感触、舌触り、口内いっぱいに広がる抹茶の香ばしさとチョコレートの甘さ。
飲み込む寸前に鼻から抜けていく抹茶と洋酒が混ざった芳醇な香り。
その後味に、暫くの間は浸れそうな、いや、浸っていたい気分にすらなる。


「でしょ。自信作だったの。本当はね、三種類目はホワイトの予定だったの。でも、沙織さんがお菓子作りに使ってくださいって、お抹茶をいっぱい買ってきてくれたから、折角だし作ってみようかと。」
「それで抹茶か。」


どうやら先日の着物と共に、アテナが和菓子の材料を色々と用意してくれたらしい。
抹茶の他にも、小豆や黒糖、粉のほうじ茶、ゆずジャムや干し柿。
それに春に向けて桜餅の材料なども。
これから先、どんな菓子が出てくるのか、春の日のスイーツタイムを楽しみに思いながら、モカ味のトリュフを口に放り込んだ。
抹茶とは違う苦味と甘味に、また頬が落ちそうな感覚になって、自然と目が細くなる。


「飛鳥の作るチョコレートは、食用の宝石だな。食べて初めて価値が分かる。」
「何でしょう、その表現。あまり嬉しい気がしないんですが、シュラさん。」
「褒めている。素直に喜べ。」
「褒めてくれてるんですか、そうですか。」


小さく肩を竦めて、自分もトリュフに手を伸ばす飛鳥。
予想外に甘かったのか、一口で食べるのは大き過ぎたのか、キュッと顔を中央に寄せた表情が可愛らしい。
もう一つチョコを摘み、それを味わいながら、飛鳥の七変化する表情を眺める午後の時間。
恋人と二人きり、まったりとしたバレンタインのティータイム。


だが、こういう時には、必ずそれをブチ壊す乱入者が現れるというもの。
何となく予感はしていたのだが、実際に出て来られると、非常にムカつくものだな。
無駄にキラキラした笑顔を貼り付けて現れたアフロディーテは、最初から俺達の時間を邪魔する気満々だったようで、俺の鋭い一睨みを受けて怯みもしなかった。


「やぁ、飛鳥。キミは今日も可愛らしいね。元気そうで何よりだ。」
「アフロディーテこそ、今日も美人ね。」
「キミは今日も殺し屋のような目で睨むな。」
「……フン、何しに来た?」


肩を大きく竦めただけで、俺の問いには答えようとしない。
そそくさと席をたった飛鳥は、多分、ヤツの為に茶でも淹れにいったのだろう。
そんなもの淹れる必要などないのに。
長居されては困るのだ。


「まぁまぁ、そうトゲトゲしないでくれ。届けものを渡しに来ただけなんだから。」
「届けものだと?」
「わっ。いっぱい。」


差し出された紙袋の中には、箱に入ったチョコレートがぎっしり詰まっていた。
何だか分からずヤツを見上げると、キミ宛のチョコだと言って、胸の中に押し込まれる。


「失礼な話さ。こんな不愛想極まりないムッツリ彼女持ちの男に、こんなに沢山のチョコレートが集まるなんてね。」
「知るか。俺は飛鳥以外からのチョコはいらん。」
「そう言うだろうと思ったよ。だが、気持ちだけでも受け取って上げないと。折角の贈り物なんだからね。」
「あ、ピエールエルメ。こっちはジャンポールエヴァン。これはマルコリーニ? 凄い! 美味しそう!」


勝手に紙袋の中を漁り、キャッキャと楽しそうな声を上げる飛鳥。
嬉々(イソイソ)と皿にチョコを並べ、まるで芸術品を眺めるが如く、それを右から左から眺めてうっとりしている。
まぁ、飛鳥が嬉しいと思うのなら。
嫌な気分にならないのであれば、それで良い。
それで俺も満足なのだ。



彼女も満足なバレンタイン



(これは飛鳥が作ったの? 美味しそうなトリュフだ。)
(駄目だぞ、貴様にはやらん。)
(相変わらずの独占欲の塊だね、キミは。)



‐end‐





ハッピーバレンタイン!
今年も山羊さまは夢主さんのチョコを独り占めです。
なのに、他からもチョコが殺到するとか、無駄にモテ男だったりします。
蟹さまが歯噛みしてそうw

2016.02.14



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