petit four的月の夜



寒い寒い冬の夜。
あと半月もすれば少しずつ暖かさが増していく時期とはいえ、今はまだまだ寒さばかりが立つ。
身を斬られるような寒さには慣れている私でも、聖域の冬には身体の芯から震えてしまう。
唇の端から漏れ出る白い息を視界の片隅に流し見ながら、暗い十二宮の階段を、コツコツと足音を響かせて下りていく。
こんな寒い夜は、度の強い酒でも飲みたいものだと、ぼんやり思いながら。


「邪魔をする。」
「っ?! あ、あぁ、カミュか。ど、どうした、こんな時間に?」


用があって寄った磨羯宮。
サガに引き留められて付き合わされた残業の帰りに、そのサガからシュラに書類を届けてくれと託され、まぁ、一つ下の宮だし大した時間のロスにはならないだろうと寄ってみたのだが。
時間が時間だけに、二人仲良く寄り添って酒を酌み交わしているところに、乱入してしまう形になってしまった。


「す、すまん、カミュ。こ、ここから動けなくてな。書類は、そ、そこに置いといてくれ。」
「飛鳥は寝ているのか?」
「す、少しばかり酔ってしまったようだ。」


窓辺の床に二人で座り込み、飛鳥はシュラの肩に頭を預けて眠っている。
人前で仲良くするのを極度に苦手としているシュラの事。
私の姿を見た瞬間に、肩に乗る飛鳥を押し戻そうとして、だが、寝ている彼女を冷たく突き放す事も出来ずにアタフタとしているのが、何だか見ていておかしい。
いつもクールで大人なシュラには、なかなか見られない姿だ。
面白い状況に、直ぐに立ち去るべきところを、わざと話を引き延ばして、慌てるシュラを観察して楽しんでしまう自分。


「しかし、二人共に着物姿とは……。」
「先日、アテナが飛鳥にプレゼントしてくださったのだ。すっかり気に入ったようでな。」
「それで何故、シュラまで?」
「一人で着ても寂しいとか何とか。まぁ、俺も着物は似合うからな、満更ではない。」


似合うというか、似合い過ぎて怖いくらいだが。
着物で座布団にドッカリと座り込み、熱燗で晩酌をしている姿は、どう見てもジャパニーズマフィアだ。
しかも、自分で似合うとか言うか、普通?
などと思ったが、それを伝えてしまっては激しく怒り出しかねないので、敢えて黙ったままでいる。


「それで何故、窓辺で? そんな場所では寒いだろうに。」
「月見酒だ。飛鳥が、着物で月を見ながら晩酌するのが風流だとか言っていた。」
「風流、か。それが日本らしさなのかも知れぬな。」
「熱燗につまみ。たまには甘いもの以外というのも悪くはない。いや、しかし……。」


鮭のトバ、帆立の燻製、柿の種と塩辛いおつまみを次々と摘み上げ、軽く片眉を上げるシュラ。
辛い日本酒にはピッタリのつまみだが、どうやら彼は満足していない様子だ。


「やはり少しばかり糖分が必要だな。甘いものが欲しい。」
「シュラ。日本酒に甘いものは合わないと思うのだが。」
「いや、飛鳥なら日本酒に合わせても、美味く食べられるスイーツを作れる筈だ。」


それは恋人自慢なのか?
ただの惚気なのか?
しかし、甘いものが食べたいというだけで、自分の肩で気持ち良さそうに眠る恋人を起こそうとする身勝手さは、流石にどうかと思う。
窘めると、シュラは少しだけ眉を寄せたが、何も言わずに手を引っ込めた。


「幸せ者だな、貴方は。羨ましい。」
「だったら、お前も恋人の一人でも作れば良い。」
「それが出来るなら、二人を見て羨ましいと思ったりしないのだ。」


呆れの溜息を吐くと、シュラがコチラを見上げて手招きをしているのが見えた。
どうやら一杯どうだと誘われているようだ。
チラと見遣ったのは、眠る飛鳥の様子。
起きる気配はなかったので、シュラに勧められるままに床に座り込み、熱い日本酒で杯を交わす。
するとどうだ。
スルリ、シュラの肩から滑り落ちた飛鳥が、彼の膝を枕に変えたのだった。



静かで心地良い月見酒



(うう……、シュラの膝……、固くて寝心地悪い……。)
(何だ、起きたのか、飛鳥? なら何か甘いものを作ってくれ。)
(こんな時間に菓子作りをさせようなんて、鬼畜だな、貴方は。)



‐end‐





意味なし山なしオチなしの話。
結局、着物で晩酌させたかっただけとかいうw

2016.02.21



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