petit four的節分



「シュラ、特製スイーツは如何ですか?」
「……ロールケーキ、か?」


夕食後、飛鳥が運んできたのはロールケーキだった。
しかし、いつも彼女が作ってくれるような豪華で重量もある太いロールケーキを切り分けたものとは違い、それは細くて長いロールケーキが一本そのままの形。
口の小さな飛鳥でも、十分にかぶりつける太さだ。


「不思議な形をしている。」
「今日は節分だから。恵方巻きならぬ、恵方ロールなのです。」


クスクスと笑いながら、日本の風習を語る飛鳥。
節分の日には、恵方の方角に向かって、恵方巻きを無言で食べるらしい。
その時、願い事も心の中に思い浮かべるとか何とか……。


「七福神にちなんで、七種類の具材を入れた太巻きを食べるのが本当なんだけどね。でも、甘い物好きなシュラと、パティシエの私なら、やっぱりココはロールケーキが良いかなと思って。」
「では、これを無言で食い切れば良いのだな。恵方とは、どっちだ?」
「今年は南南東。」
「ならば、あちらだな。食うぞ。」
「おお、流石は聖闘士。方向感覚は抜群ね。」


聖闘士だろうが何だろうが、長年住み慣れた場所なら、誰だって方角くらいは分かるだろう。
まぁ、そんな事はどうでも良いとして、彼女から受け取ったロールケーキにかぶりつく。
ほわりと柔らかい生地、しっとりと甘い生クリーム。
そして、最初は栗、それからチョコレート、そして、バナナ、苺と、細長いロールケーキを食べ進める毎に、次々と現れる違う具材。
全てを食べ終わって気が付いたのは、それが七種だった事だ。


「願い事はした?」
「あぁ。だが、内容は秘密だ。」
「私にも教えてくれないの?」
「口に出しては、願いが叶わないかもしれないからな。」
「つまんないの……。あ、じゃあ、豆撒きしましょう、豆撒き!」


俺の願いへの興味は、豆撒きに取って代わられて、そして、彼女の頭の中から消えたらしい。
何処からか持ってきた豆の袋を抱え、飛鳥は目をランランと輝かせ、何故か俺の方へとにじり寄ってくる。


「オイ。俺にそれを投げ付ける気か?」
「そうよ。」
「それは鬼を払うものと聞いた。何故に俺に向けて投げる?」
「シュラの中に巣食う鬼さん達を追い払うためですよ、勿論。」


この俺の中に、黄金聖闘士である俺の中に、鬼が居ると言うのか?
しかも、『達』とは、複数居ると?


「まずは、糖分取り過ぎの鬼さん。修練でカロリーの消費はするといっても、やっぱり心配だもの。それと、独占欲が強過ぎる鬼さん。バレンタインの『いつもありがとうチョコ』くらいは許してくれても良いと思うけど。」
「そ、それは、お前にしてみれば義理でも、貰った方が勘違いするかもしれぬだろう。」
「だから、ありがとうチョコだって言ってるでしょ。もう一人、鬼さんがいたわ。嫉妬心が深過ぎる鬼さん。」
「ぐ……。」


ぐうの音も出ない。
何を言っても言い負かされるの典型状態に陥る俺。
結局、口籠った隙を突かれて、飛鳥が俺に豆をぶつけ始める。


「シュラの中の鬼は外〜! シュラの中に福は内〜!」
「そのおかしな掛け声は止めてくれ、飛鳥……。」
「ほら、シュラも豆撒き! 福は内〜! 鬼は外〜!」


楽しげに俺に向かって豆を投げ付ける飛鳥の姿は、まるで小さな子供が騒いでいるようだった。
それでも、日々、闘いに向かい、生命の危険と隣り合わせている俺を、傍で見守っている飛鳥は、口に出さずとも不安な事も多いのだろう。
ならば、こういう無邪気にはしゃぐ時間があっても良いのだろうな。
二人で子供みたいにじゃれ合って、笑う時があっても。



二人の間に沢山の福が訪れますように



(さ、豆を食べよう。シュラは二十三個ね。)
(そんなに食うのか? ボリボリ。豆だけ食っても味気ないな。)
(これも厄除けだもの。ちゃんと食べてね。)


‐end‐





山羊さまと節分です。
北海道では何故か落花生(殻付き)で豆撒きするのですが、それでは痛そうなので、ここでは普通に炒り大豆でw

2016.02.03



- 5/50 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -