petit four的冬のお悩み



「悩み事かい? キミにしては珍しい。」


目の前には仏頂面を貼り付けたような強面の男。
常に変わらぬ無表情のまま、目の前に山と積まれた数種のクッキーを貪り食べている。
その光景も普段と何ら変わりないが、それでも長年、友人として傍にいた私には、彼が何かを悶々と悩んでいるのは手に取るように分かった。


「俺に悩みだと?」
「そうさ。他の人には分からなくとも、私にはお見通しさ。私を誰だと思っている? 無表情だろうと、常と変わらず糖分を過剰摂取していようと、キミの僅かな仕草や表情の違いくらいは簡単に読み取れるよ。」
「そう、か……。」


観念したのか、諦めたのか。
それとも、私という相談相手を見つけてホッとしたのか。
クッキーへと伸びていた手をピタリと止めて、シュラは話を切り出した。


「惚気だと思わないでくれ。その……、飛鳥にだな……。」
「飛鳥に、何だい?」
「飛鳥に……、ベッドの中で傍に寄らないでくれと避けられている。今まで一度も、そういう事はなかったのだが……。」


十分な惚気じゃないか。
話を聞いて呆れた。
どうせソッチ方面には強者と名高い山羊の事、執拗に組み敷かれて飛鳥も疲れがピークにきているのだろう。
彼女は一般人、華奢でか弱い女性なのだ。
体力と精力の有り余っているコイツに強要されては、身が持たないというもの。


「ち、違うっ。そうではない。俺だって、ちゃんと考えているし、加減もしている。飛鳥が朝早くから仕込みがある時や、俺が朝早い任務の前夜は、そういう事をしないと決めてあるからな。多少、ムラムラする時もあるが、そこは意志の力で抑え込んでだな……。」
「ほう。それで、どうして飛鳥に嫌がられるんだい? キミの無理強い以外に、何が原因だと?」
「そ、それなんだが……。」


何やら言い辛そうに俯くシュラ。
彼には珍しくモゴモゴと口籠っているのが、どうにも腹立たしく、私はバンと強めにテーブルを叩いてやった。
効果は覿面。
驚き、弾かれたように顔を上げる山羊。


「男らしくないな、シュラ。ハッキリ言いなよ。」
「そ、それが、……が痛いと。」
「は? 何だって?」
「お、俺の踵が痛いから、傍に寄るなと言うのだ。」


つまりは踵の荒れ。
冬だから仕方ない事と言ってしまえばそれまでだが、女性にしてみれば不快な事でもある。
触れる足、絡ませる足が、ガサガサとささくれ立っていると、時に固く尖ったそれが女性の足に傷を付ける事だってあるのだ。
男は女性達のようにケアをしたりはしないからな。
特に、シュラのようなガサツな男なら尚更だろう。


「ヒビ割れた乾燥餅のようだと言われた。」
「乾燥餅?」
「前に一度、オカキを揚げた時に、カラカラでガチガチになった餅を割っただろう。まるで、あの餅のような踵だと……。」


成る程、ガチガチに乾燥して表面がヒビ割れた餅、ね。
上手い具合に面白い表現をするものだ。
しかし、飛鳥に突き放された事に、そんなにも落ち込むとは、シュラも存外に可愛いものだな。


「仕方ない。私が特別に配合した薔薇のクリームを分けて上げるよ。乾燥肌に良く効くんだ。肘や膝、踵のガサガサも直ぐにツルツルになる。」
「……本当か?」
「何を疑う事がある? まぁ、騙されたと思って、暫く使ってみると良いよ。きっと飛鳥に嫌がられる事もなくなるさ。」


そもそも、キミのために分けてやる訳じゃない。
飛鳥が痛い思いをする、ましてや、彼女の肌に傷が付くなんて許せないからね。
全ては飛鳥の快適な睡眠のためだよ。
分かったかい、ガサツな山羊座殿。



冬のお手入れ、忘れずに



(あれ? シュラ、ちょっと良い匂いする。)
(アフロディーテから乾燥に効くクリームを分けてもらった。見ろ、踵もスベスベだぞ。)
(わ。本当、ツルツル。)
(これで、今夜から遠慮なくお前を抱き締めて眠れる。)
(え、それって、もしかして……。)



‐end‐





冬に踵がガサガサになるのは、男女共通の悩み。
でも、男性は放置する人も多いので、それを彼女に嫌がられて落ち込む山羊さまとかも可愛いと思いますw
そして、悩みが消えると同時に早速、御盛んになる山羊さまとかw

2016.01.31



- 4/50 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -